ハリーは右手を挙げ、ちょっとためらったが、ダンブルドアの目の前で激はげしく手を振ってみた。ダンブルドアは瞬まばたきもせず、ハリーを振り返りもせず、身動き一つしなかった。これではっきりした。ダンブルドアならこんなふうにハリーを無視したりするはずがない。ハリーは「記憶」の中にいるのだ。ここにいるのは現在のダンブルドアではない。しかし、それほど昔のことではないはずだ……隣に座ったダンブルドアは、いまと同じように銀色の髪かみをしている。それにしても、ここはどこなのだろう? みんな、何を待っているのだろう?
ハリーはもっとしっかりあたりを見回した。上から覗いていたときに感じたように、この部屋はほとんど地下室に違いなかった――部屋というより、むしろ地ち下か牢ろうのようだ。何となく陰気な、不吉な空気が漂ただよっている。壁かべには絵もなく、何の飾りもない。四方の壁にびっしりと、ベンチが階段状に並んでいるだけだ。部屋のどこからでも、肘ひじのところに鎖くさりのついた椅子がはっきり見えるようにベンチが並んでいる。
ここがどこなのか、まだ何も結論が出ないうちに、足音が聞こえた。地下牢の隅すみにあるドアが開いた。そして三人の人影が入ってきた――いや、むしろ男が一人と、二体の吸きゅう魂こん鬼きだ。
ハリーは体の芯しんが冷たくなった。吸魂鬼は、フードで顔を隠した背の高い生き物だ。それぞれが、腐くさった死人のような手で男の腕うでをつかみ、中央にある椅子に向かってスルスルとゆっくり滑すべるように動いていた。間に挟はさまれた男は気を失いかけている。無理もない……記憶の中では、吸魂鬼はハリーに手出しできないとわかってはいた。しかし、ハリーは吸魂鬼の恐ろしい力をまざまざと憶おぼえている。見つめる魔法使いたちがギクリと身を引く中、吸魂鬼は鎖つきの椅子に男を座らせ、スルスルと下がって部屋から出ていった。ドアがバタンと閉まった。