地下牢がまたぼやけてきた。三み度たびはっきりしてきたとき、ハリーはあたりを見回した。ハリーとダンブルドアはまたクラウチ氏の隣となりに座っていたが、周りの様子は、これほど違うかと思うほど様変わりしていた。しんと静まり返り、クラウチ氏の隣の席にいる、弱々しい、儚はかなげな魔女の、涙も枯かれ果てたすすり泣きが時折聞こえるだけだ。魔女は両手で口にハンカチを押し当て、その手が細かく震ふるえている。ハリーはクラウチを見上げた。いっそうやつれ、白はく髪はつがぐっと増えたように見えた。こめかみがピクピク引きつっている。
「連れてこい」クラウチ氏の声が地ち下か牢ろうの静寂しじまに響ひびき渡った。
隅すみのドアが、三み度たび開いた。こんどは四人の被ひ告こくを、六体の吸きゅう魂こん鬼きが連行している。傍ぼう聴ちょう席せきの目がいっせいにクラウチ氏に注がれるのを、ハリーは見た。ヒソヒソ囁ささやき合っている者も何人かいる。
地下牢の床に、鎖くさりつきの椅子が四脚並び、吸魂鬼は四人を別々に座らせた。がっしりした体つきの男は、虚うつろな目でクラウチを見つめ、それより少し痩やせて、より神経質そうな感じの男は、傍聴席のあちこちにすばやく目を走らせている。豊かな艶つやのある黒くろ髪かみの魔女は、鎖くさりつきの椅子が王座でもあるかのように踏ふん反り返り、目を半はん眼がんに開いていた。最後は十八、九の少年で、恐怖に凍こおりついている。ブルブル震ふるえ、薄うす茶ちゃ色の髪が乱れて顔にかかり、そばかすだらけの肌はだが蝋ろうのように白くなっていた。クラウチの脇わきのか細い小こ柄がらな女性は、ハンカチに嗚咽おえつを漏もらし、椅子に座ったまま、体をわななかせて泣きはじめた。
クラウチが立ち上がった。目の前の四人を見下ろすクラウチの顔には、混じり気なしの憎しみが表れていた。
「おまえたちは魔ま法ほう法ほう律りつ評ひょう議ぎ会かいに出頭している」クラウチが明確に言った。「この評議会は、おまえたちに評決ひょうけつを申し渡す。罪状は極ごく悪あく非ひ道どうの――」
「お父さん」薄茶色の髪の少年が呼びかけた。「お父さん……お願い……」
「――この評議会でも類のないほどの犯罪である」クラウチはいっそう声を張り上げ、息子の声を押しつぶした。「四人の罪に対する証しょう拠この陳述ちんじゅつはすでに終わっている。おまえたちは一人の『闇やみ祓ばらい』――フランク・ロングボトム――を捕らえ、『磔はりつけの呪のろい』にかけた咎とがで訴そ追ついされている。ロングボトムが、逃亡中のおまえたちの主人である『名前を言ってはいけないあの人』の消息しょうそくを知っていると思い込み、この者に呪いをかけた咎である――」
「お父さん、僕はやっていません!」鎖につながれたまま、少年は上に向かって声を振り絞しぼった。「お父さん、僕は、誓って、やっていません。吸魂鬼のところへ送り返さないで――」
「さらなる罪状は」クラウチ氏が大声を出した。「フランク・ロングボトムが情報を吐はこうとしなかったとき、その妻に対して『磔の呪い』をかけた咎である。おまえたちは『名前を言ってはいけないあの人』の権力を回復せしめんとし、その者が強力だった時代を、おまえたちの暴力の日々を復活せしめんとした。ここで陪ばい審しんの評決を――」