「お母さん!」上を振り仰あおぎ少年が叫さけんだ。クラウチの脇わきのか細い小柄な魔女が、体を揺ゆすりながらすすり泣きはじめた。「お母さん、お父さんを止めてください。お母さん。僕はやっていない。あれは僕じゃなかったんだ!」
「ここで陪審の評決を」クラウチ氏が叫んだ。「これらの罪は、アズカバンでの終身刑に値すると、私はそう信ずるが、それに賛成の陪審員は挙手願いたい」
地下牢の右手に並んだ魔法使いや魔女たちが、いっせいに手を挙げた。バグマンのときと同じように、壁かべに沿って並ぶ傍聴席から拍手が湧わき起こった。どの顔も、勝ち誇ほこった残忍さに満ちている。少年が泣き叫さけんだ。
「いやだ! お母さん、いやだ! 僕、やっていない。やっていない。知らなかったんだ! あそこに送らないで。お父さんを止めて!」
吸きゅう魂こん鬼きがスルスルと部屋に戻ってきた。少年の三人の仲間は、黙だまって椅子から立ち上がった。半はん眼がんの魔女が、クラウチを見上げて叫んだ。
「クラウチ、闇やみの帝てい王おうは再び立ち上がるぞよ! われわれをアズカバンに放り込むがよい。われわれは待つのみ! あの方は蘇よみがえり、われわれを迎えにおいでになる。ほかの従者じゅうしゃの誰よりも、われわれをお褒ほめくださるであろう! われわれのみが忠実であった! われわれだけがあの方をお探し申し上げた」
しかし、少年はもがいていた。ハリーには、吸魂鬼の冷たい、心を萎なえさせる力が、すでに少年を襲おそっているのがわかったが、それでも少年は、吸魂鬼を追い払おうとしていた。魔女が堂々と地ち下か牢ろうから出ていき、少年が抵てい抗こうし続けるのを、聴ちょう衆しゅうは嘲あざけり笑い、立ち上がって見物している者もいた。
「僕はあなたの息子だ!」少年がクラウチに向かって叫んだ。「あなたの息子なのに!」
「おまえは私の息子などではない!」クラウチ氏が怒ど鳴なった。突然、目が飛び出した。「私には息子はいない!」
クラウチの隣となりの儚はかなげな魔女が、大きく息を呑のみ、椅子にくずおれた。気絶していた。クラウチは気づく素そ振ぶりも見せない。
「連れていけ!」クラウチが、吸魂鬼に向かって激はげしく叫んだ。「連れていくのだ。そいつらはあそこで腐り果てるがよい!」
「お父さん! お父さん、僕は仲間じゃない! いや! いやだ! お父さん、助けて!」