ダンブルドアは少し眉まゆをひそめ、杖つえの先で水すい盆ぼんの中の想いを突ついた。すると、たちまち、十六歳くらいの小太りの女の子が、怒った顔をして現れた。両足を水盆に入れたまま、女の子はゆっくり回転しはじめた。ハリーにもダンブルドアにも無む頓とん着ちゃくだ。話しはじめると、その声はスネイプの声と同じように反響はんきょうした。まるで、石の水盆の奥底から聞こえてくるようだ。
「ダンブルドア先生、あいつ、わたしに呪のろいをかけたんです。わたし、ただちょっとあの子をからかっただけなのに。あの子が先週の木曜に、温室の陰でフローレンスにキスしてたのを見たわよって言っただけなのに……」
「じゃが、バーサ、君はどうして」ダンブルドアが女の子を見ながら、悲しそうに独ひとり言を言った。女の子は、すでに黙だまり込んで回転し続けている。「どうして、そもそもあの子の跡あとをつけたりしたのじゃ?」
「バーサ?」ハリーが女の子を見て呟つぶやいた。「この子がバーサ?――昔のバーサ・ジョーキンズ?」
「そうじゃ」ダンブルドアはそう言うと、再び水盆の「憂うれい」を突ついた。バーサの姿はその中に沈み込み、水盆の「想い」はまた不ふ透とう明めいの銀色の物質に戻った。
「わしが覚えておるバーサの学生時代の姿じゃ」
「憂うれいの篩ふるい」から出る銀色の光が、ダンブルドアの顔を照らした。その顔があまりに老ふけ込んで見えることに、ハリーは突然気づいた。もちろん、頭では、ダンブルドアが相当の歳だということはわかっていたが、なぜかこれまでただの一度も、老人だとは思わなかった。
「さて、ハリー」ダンブルドアが静かに言った。「きみがわしの『想い』に囚とらわれてしまわないうちに、何か言いたいことがあったはずじゃな」
「はい。先生――ついさっき『占うらない学がく』の授業にいて――そして――あの――居眠りしました」ハリーは叱しかられるのではないかと思い、ちょっと口ごもった。が、ダンブルドアは「ようわかるぞ。続けるがよい」とだけ言った。