とたんに、世界は元に戻った。ハリーは前まえ屈かがみにのめり、すばらしく硬かたい地面の上に両膝りょうひざをついていた。ショックで、ハリーは一時的に足が萎なえたように感じた。気を落ち着かせるため、ハリーは深く息を吸い込み、再び立ち上がり、前方へと急いだ。駆かけ出しながら肩越しに振り返ると、金こん色じきの霧は何事もなかったかのように、月明かりを受けてキラキラとハリーに向かって煌きらめいていた。
二本の道が交差する場所で、ハリーは立ち止まり、どこかにフラーがいないかと見回した。叫さけんだのはフラーに違いなかった。フラーは何に出会ったのだろう? 大丈夫だろうか? 赤い火花が上がった気配はない――フラーが自分で切り抜けたということだろうか? それとも、杖つえを取ることができないほどたいへんな目に遭あっているのだろうか? だんだん不安を募つのらせながら、ハリーは二ふた股またの道を右に採った……しかし、同時にハリーは、ある思いを振り切ることができなかった。代表選手が一人落らく伍ごした……。
優ゆう勝しょう杯はいはどこか近くにある。フラーはもう落伍してしまったようだ。僕はここまで来たんだ。本当に優勝したら? ほんの一瞬いっしゅん――期せずして代表選手になってしまってから初めて――全校の前で三さん校こう対たい抗こう試じ合あいの優勝杯を差し上げている自分の姿が再び目に浮かんだ……。
それから十分間、ハリーは袋小路以外は何の障害にも遭わなかった。同じ場所で、二度同じように曲り方を間違えたが、やっと新しいルートを見つけ、その道を駆け足で進んだ。杖つえ灯あかりが波打ち、生いけ垣がきに映った自分の影が、チラチラ揺ゆれ、歪ゆがんだ。一つ角を曲がったところで、ハリーはとうとう「尻しっ尾ぽ爆ばく発はつスクリュート」と出くわしてしまった。
セドリックの言うとおりだった――ものすごく大きい。長さ三メートルはある。何よりも巨大な蠍さそりにそっくりだった。長い棘とげを背中のほうに丸め込んでいる。ハリーが杖灯りを向けると、その光で分厚い甲こう殻かくがギラリと光った。
「ステューピファイ! 麻ま痺ひせよ!」
呪文はスクリュートの殻からに当たって撥はね返った。ハリーは間かん一いっ髪ぱつでそれをかわしたが、髪かみが焦こげる臭いがした。呪じゅ文もんが頭のてっぺんの毛を焦がしたのだ。スクリュートが尻しっ尾ぽから火を噴き、ハリーめがけて飛びかかってきた。
「インペディメンタ! 妨ぼう害がいせよ!」ハリーが叫さけんだ。
呪文はまたスクリュートの殻に当たって、撥はね返った。ハリーは数歩よろけて倒れた。
「インペディメンタ!」
スクリュートはハリーからほんの数センチのところで動かなくなった――辛かろうじて殻のない下腹部の肉の部分に呪文を当てたのだ。ハリーはハァハァと息を切らしてスクリュートから離れ、必死で逆方向へと走った――妨害呪文は一時的なもので、スクリュートはすぐにも脚が動くようになるはずだ。