「さあ、行くんだ」セドリックが言った。ありったけの意志を最後の一いっ滴てきまで振り絞しぼって言った言葉のようだった。しかし、断固とした表情で、腕組みし、決心は揺ゆるがないようだ。
ハリーはセドリックを見て、優勝杯を見た。一瞬いっしゅん、眩まばゆいばかりの一瞬、ハリーは優勝杯を持って迷めい路ろから出ていく自分の姿を思い浮かべた。高々と優勝杯を掲かかげ、観衆の歓かん声せいが聞こえ、チョウの顔が賞讃しょうさんで輝かがやく。これまでよりはっきりと光景が目に浮かんだ……そして、すぐにその光景は消え去り、ハリーは影の中に浮かぶセドリックの頑かたくなな顔を見つめていた。
「二人ともだ」ハリーが言った。
「えっ?」
「二人一いっ緒しょに取ろう。ホグワーツの優勝に変わりない。二人引き分けだ」
セドリックはハリーをじっと見た。組んでいた腕を解いた。
「君――君、それでいいのか?」
「ああ」ハリーが答えた。「ああ……僕たち助け合ったよね? 二人ともここにたどり着いた。一緒に取ろう」
一瞬、セドリックは耳を疑うような顔をした。それからニッコリ笑った。
「話は決まった」セドリックが言った。「さあここへ」
セドリックはハリーの肩を抱くように抱かかえ、優ゆう勝しょう杯はいの載のった台まで足を引きずって歩くのを支えた。たどり着くと、優勝杯の輝かがやく取っ手にそれぞれ片手を伸ばした。
「三つ数えて、いいね?」ハリーが言った。「いち――に――さん――」
ハリーとセドリックが同時に取っ手をつかんだ。
とたんに、ハリーは臍へその裏側のあたりがぐいと引っ張られるように感じた。両足が地面を離れた。優勝杯の取っ手から手がはずれない。風の唸うなり、色の渦うずの中を、優勝杯はハリーを引っ張っていく。セドリックも一いっ緒しょに。