セドリックの亡なき骸がらが五、六メートルほど先に横たわっている。そこから少し離れて優ゆう勝しょう杯はいが星明かりを受けて冷たく光りながら転がっていた。ハリーの杖はセドリックの足下に落ちている。ハリーが赤ん坊だと思ったローブの包みは、墓のすぐ前にあった。包みはじれったそうに動いているようだ。包みを見つめると、ハリーの傷痕が再び焼けるように痛んだ……そのとき、ハリーははっと気づいた。包みの中身は見たくない……包みは開けないでくれ。
足あし下もとで音がした。見下ろすと、ハリーが縛しばりつけられている墓石を包囲するように、巨大な蛇へびが草むらを這はいずり回っている。ワームテールのゼイゼイという荒い息いき遣づかいがまたいちだんと大きくなってきた。何か重いものを押し動かしているようだ。やがてワームテールがハリーの視野の中に入ってきた。石の大おお鍋なべを押して、墓の前まで運んでいた。何か水のようなものでなみなみと満たされている――ピシャピシャと撥はねる音が聞こえた――ハリーがこれまで使ったどの鍋よりも大きい。巨大な石いし鍋なべの胴は大人おとな一人が十分、中に座れるほどの大きさだ。
地上に置かれた包みは、何かが中から出たがっているように、ますます絶え間なくもぞもぞと動いていた。ワームテールは、こんどは鍋の底のところで杖つえを使い、忙いそがしく動いていた。突然パチパチと鍋底に火が燃え上がった。大だい蛇じゃはズルズルと暗くら闇やみに消えていった。
鍋の中の液体はすぐに熱くなった。表面がボコボコ沸ふっ騰とうしはじめたばかりでなく、それ自身が燃えているかのように火の粉が散りはじめた。湯気が濃こくなり、火加減を見るワームテールの輪りん郭かくがぼやけた。包みの中の動きがますます激はげしくなった。ハリーの耳に、再びあの甲かん高だかい冷たい声が聞こえた。
「急げ!」
いまや液面全体が火花で眩まばゆいばかりだった。ダイヤモンドをちりばめてあるかのようだ。
「準備ができました。ご主人様」
「さあ……」冷たい声が言った。