ハリーの血を持ち、ワームテールはよろめきながら大鍋に戻り、その中に血を注いだ。鍋の液体はたちまち目も眩くらむような白に変わった。任にん務むを終えたワームテールは、がっくりと鍋のそばに膝ひざをつき、くずおれるように横ざまに倒れた。手首を切り落とされて血を流している腕を抱えて地面に転がり、ワームテールは喘ぎ、すすり泣いていた。
大鍋はグツグツと煮にえ立ち、四方八方にダイヤモンドのような閃せん光こうを放っている。その目も眩むような明るさに、周りのものすべてが真っ黒なビロードで覆おおわれてしまったように見えた。何事も起こらない……。
溺おぼれてしまえ。ハリーはそう願った。失敗しますよう……。
突然、大おお鍋なべから出ていた火花が消えた。その代わり、濛もう々もうたる白い蒸気がうねりながら立ち昇ってきた。濃こい蒸気がハリーの目の前のすべてのものを隠した。立ち込める蒸気で、ワームテールも、セドリックも、何も見えない……失敗だ。ハリーは思った……溺れたんだ……どうか……どうかあれを死なせて……。
しかし、そのとき、目の前の靄もやの中にハリーが見たものは、氷のような恐怖を掻かき立てた。大鍋の中から、ゆっくりと立ち上がったのは、骸がい骨こつのように痩やせ細った、背の高い男の黒い影だった。
「ローブを着せろ」蒸気の向こうから、甲かん高だかい冷たい声がした。ワームテールは、すすり泣き、呻うめき、手首のなくなった腕をかばいながらも、慌あわてて地面に置いてあった黒いローブを拾い、立ち上がって片手でローブを持ち上げ、ご主人様の頭からかぶせた。
痩せた男は、ハリーをじっと見ながら大鍋を跨またいだ……ハリーも見つめ返した。その顔は、この三年間ハリーを悪夢で悩まし続けた顔だった。骸骨よりも白い顔、細長い、真っ赤な不気味な目、蛇へびのように平らな鼻、切れ込みを入れたような鼻の穴……。
ヴォルデモート卿きょうが復活した。