ヴォルデモートは杖つえを下げた。拷ごう問もんされた死し喰くい人びとは、息も絶え絶えに横たわっていた。
「起きろ、エイブリー」ヴォルデモートが低い声で言った。「立て。許しを請こうだと? 俺おれ様さまは許さぬ。俺様は忘れぬ。十三年もの長い間だ……おまえを許す前に十三年分のつけを払ってもらうぞ。ワームテールはすでに借りの一部を返した。ワームテール、そうだな?」
ヴォルデモートは泣き続けているワームテールを見下ろした。
「貴き様さまが俺様の下もとに戻ったのは、忠ちゅう誠せい心しんからではなく、かつての仲間たちを恐れたからだ。ワームテールよ、この苦痛は当然の報いだ。わかっているな?」
「はい、ご主人様」ワームテールが呻うめいた。「どうか、ご主人様……お願いです……」
「しかし、貴様は俺様が身体を取り戻すのを助けた」ヴォルデモートは地べたですすり泣くワームテールを眺ながめながら、冷たく言った。「虫けらのような裏切り者だが、貴様は俺様を助けた……ヴォルデモート卿きょうは助ける者には褒ほう美びを与える……」
ヴォルデモートは再び杖を上げ、空中でくるくる回した。回した跡あとに、溶けた銀のようなものが一筋、輝かがやきながら宙に浮いていた。一瞬いっしゅん何の形もなく捩よじれるように動いていたが、やがてそれは、人の手の形になり、月光のように明るく輝きながら舞い下りて、血を流しているワームテールの手首にはまった。ワームテールは急に泣きやんだ。息いき遣づかいは荒く途切れがちだったが、ワームテールは顔を上げ、信じられないという面持ちで銀の手を見つめた。まるで輝く銀の手袋をはめたように、その手は継ぎ目なく腕についていた。ワームテールは輝く指を曲げ伸ばしした。それから、震ふるえながら地面の小枝を摘つまみ上げ、揉もみ砕くだいて粉こな々ごなにした。
「わが君きみ」ワームテールが囁ささやいた。「ご主人様……すばらしい……ありがとうございます……ありがとうございます……」
ワームテールはひざまずいたまま、急いでヴォルデモートのそばににじり寄り、ローブの裾すそにキスした。
「ワームテールよ。貴様の忠誠心が二度と揺ゆるがぬよう」
「わが君、決して……決してそんなことは……」