「我が朋ほう輩ばいよ、俺様の誤算だった。認めよう。俺様の呪のろいは、あの女の愚かな犠牲のお陰で撥はね返り、我が身を襲おそった。あぁぁー……痛みを超えた痛み、朋輩よ、これほどの苦しみとは思わなかった。俺様は肉体から引き裂さかれ、霊れい魂こんにも満たない、ゴーストの端はしくれにも劣るものになった……しかし、俺様はまだ生きていた。それを何と呼ぶか、俺様にもわからぬ……誰よりも深く不死の道へと入り込んでいたこの俺おれ様さまが、そういう状態になったのだ。おまえたちは、俺様の目指すものを知っておろう――死の克服だ。そしていま、俺様は証明した。俺様の実験のどれかが効を奏そうしたらしい……あの呪のろいは俺様を殺していたはずなのだが、俺様は死ななかったのだ。しかしながら、俺様はもっとも弱い生き物よりも力なく、自らを救う術すべもなかった……肉体を持たない身だからだ。自らを救うに役立つかもしれぬ呪じゅ文もんのすべては、杖つえを使う必要があったのだ……」
「あのころ、俺様は、眠ることもなく、一秒一秒を、果てしなくただ存在し続けることに力を尽くした……遠く離れた地で、森の中に棲すみつき、俺様は待った……誰か忠実な死し喰くい人びとが、俺様を見つけようとするに違いない……誰かがやってきて、俺様自身ではできない魔法を使い、俺様の身体を復活させるに違いない……しかし、待つだけむだだった……」
聞き入る死喰い人の中に、またしても震ふるえが走った。ヴォルデモートは、その恐怖の沈ちん黙もくがうねり高まるのを待って話を続けた。
「俺様に残されたただ一つの力があった。誰かの肉体に取り憑つくことだ。しかし、ヒトどもがうじゃうじゃしているところには、怖こわくて行けなかった。『闇やみ祓ばらい』どもがまだあちこちで俺様を探していることを知っていたからな。ときには動物に取り憑いた――もちろん、蛇へびが俺様の好みだが――しかし、動物の体内にいても、霊れい魂こんだけで過ごすのとあまり変わりはなかった。あいつらの体は、魔法を行うのには向いていない……それに、俺様が取り憑くと、あいつらの命を縮めた。どれも長続きしなかった……」
「そして……四年前のことだ……俺様の蘇よみがえりが確実になったかに見えた。ある魔法使いが――若わか造ぞうで、愚かな、騙だまされやすいやつだったが――我が住すみ処かとしていた森に迷い込んできて、俺様に出会った。ああ、あの男こそ、俺様が夢にまで見た千せん載ざい一いち遇ぐうの機会に見えた……なにしろ、その魔法使いはダンブルドアの学校の教師だった……その男は、やすやすと俺様の思いのままになった……その男が俺様をこの国に連れ戻り、やがて俺様はその男の肉体に取り憑いた。そして、我が命令をその男が実行するのを、俺様は身近で監かん視しした。しかし我が計画は潰ついえた。賢けん者じゃの石を奪うことができなかったのだ。永遠の命を確保することができなかった。邪じゃ魔まが入った……またしても挫くじかれた。ハリー・ポッターに……」
再び沈黙が訪れた。動くものは何一つない。イチイの木の葉さえ動かない。死喰い人たちは、仮面の中からギラギラした視し線せんをヴォルデモートとハリーに注ぎ、じっと動かなかった。