ワームテールがハリーに近づいた。縄なわ目めが解かれる前に何とか自分の体を支えようと、ハリーは足を踏ふん張った。ワームテールはできたばかりの銀の手を上げ、ハリーの口を塞ふさいでいた布を引っ張り出し、ハリーを墓石に縛しばりつけていた縄目を、手の一振りで切り離した。
ほんの一瞬いっしゅんの隙すきがあった。その隙にハリーは逃げようとできたかもしれない。しかし、草ぼうぼうの墓場に立ち上がると、ハリーの傷きずついた足がぐらついた。死し喰くい人びとの輪わが、ハリーとヴォルデモートを囲んで小さくなり、現れなかった死喰い人の空間も埋まってしまった。
ワームテールが輪の外に出て、セドリックの亡なき骸がらが横たわっているところまで行き、ハリーの杖つえを持って戻ってきた。ワームテールは、ハリーの目を避さけるようにして、杖をハリーの手に乱暴に押しつけ、それから見物している死喰い人の輪に戻った。
「ハリー・ポッター、決けっ闘とうのやり方は学んでいるな?」闇やみの中で赤い目をギラギラさせながら、ヴォルデモートが低い声で言った。
その言葉で、ハリーは、二年前にほんの少し参加したホグワーツの決闘クラブのことを、まるで前世の出来事のように想い出した……ハリーがそこで学んだのは、「エクスペリアームス、武器よ去れ」という武ぶ装そう解かい除じょの呪じゅ文もんだけだった……それが何になるというのか? たとえヴォルデモートから杖を奪ったとしても、死喰い人に取り囲まれて、少なく見ても三十対一の多た勢ぜいに無ぶ勢ぜいだ。こんな場面に対処できるようなものは、いっさい何も習っていない。
これこそムーディが常に警けい告こくしていた場面なのだと、ハリーにはわかった……防ぎようのない「アバダ ケダブラ」の呪文だ――それに、ヴォルデモートの言うとおりだ――ここにはもう、僕のために死んでくれる母さんはいない……僕は無防備だ……。
第34章 闪回咒