「ハリー、互いにお辞じ儀ぎをするのだ」ヴォルデモートは軽く腰を折ったが、蛇へびのような顔をまっすぐハリーに向けたままだった。「さあ、儀ぎ式しきの次第には従わねばならぬ……ダンブルドアはおまえに礼れい儀ぎを守ってほしかろう……死にお辞儀するのだ、ハリー」
死喰い人たちはまた笑っていた。ヴォルデモートの唇くちびるのない口がにやりと笑っていた。ハリーは頭を下げなかった。殺される前にヴォルデモートに弄もてあそばれてなるものか……そんな楽しみを与えてやるものか……。
「お辞儀しろと言ったはずだ」ヴォルデモートが杖を上げた――すると、巨大な見えない手がハリーを容よう赦しゃなく前に曲げでもするかのように、背骨が丸まるのを感じた。死喰い人がいっそう大笑いした。
「よろしい」ヴォルデモートがまた杖を上げながら、低い声で言った。ハリーの背を押していた力もなくなった。「さあ、こんどは、男らしく俺様のほうを向け……背筋を伸ばし、誇ほこり高く、おまえの父親が死んだときのように……」
「さあ――決闘だ」ヴォルデモートは杖を上げ、ハリーが何ら身を護る手段を取る間もなく、身動きすらできないうちに、またしても「磔はりつけの呪のろい」がハリーを襲おそった。あまりに激はげしい、全身を消耗しょうもうさせる痛みに、ハリーはもはや自分がどこにいるのかもわからなかった……白熱したナイフが全身の皮ひ膚ふを一寸刻みにした。頭が激痛で爆発しそうだ。ハリーはこれまでの生涯しょうがいでこんな大声で叫さけんだことがないというほど、大きな悲ひ鳴めいを上げていた――。
そして、痛みが止まった。ハリーは地面を転がり、よろよろと立ち上がった。自分の手を切り落としたあのときのワームテールと同じように、ハリーはどうしようもなく体が震ふるえていた。見物している死し喰くい人びとの輪わに、ハリーはふらふらと横ざまに倒れ込んだが、死喰い人はハリーをヴォルデモートのほうへ押し戻した。