「隠れんぼじゃないぞ、ハリー」ヴォルデモートの冷たい猫ねこ撫なで声がだんだん近づいてきた。死喰い人が笑っている。「俺おれ様さまから隠れられるものか。もう決けっ闘とうは飽あきたのか? ハリー、いますぐ息の根を止めてほしいのか? 出てこい、ハリー……出てきて遊ぼうじゃないか……あっという間だ……痛みもないかもしれぬ……俺おれ様さまにはわかるはずもないが……死んだことがないからな……」
ハリーは墓石の陰でうずくまり、最期が来たことを悟さとった。望みはない……助けは来ない。ヴォルデモートがさらに近づく気配を感じながら、ハリーは唯ただ一ひとつのことを思い詰めていた。恐れも、理性をも超えた一つのことを――子供の隠れんぼのようにここにうずくまったまま死ぬものか。ヴォルデモートの足あし下もとにひざまずいて死ぬものか……父さんのように、堂々と立ち上がって死ぬのだ。たとえ防衛が不可能でも、僕は身を護るために戦って死ぬのだ……。
ヴォルデモートの、蛇へびのような顔が墓石の向こうから覗のぞき込む前に、ハリーは立ち上がった……杖つえをしっかり握り締め、体の前にすっと構え、ハリーは墓石をくるりと回り込んで、ヴォルデモートと向き合った。
ヴォルデモートも用意ができていた。ハリーが「エクスペリアームス!」と叫さけぶと同時に、ヴォルデモートが「アバダ ケダブラ!」と叫さけんだ。
ヴォルデモートの杖から緑の閃せん光こうが走ったのと、ハリーの杖から赤い閃光が飛び出したのと、同時だった――二つの閃光が空中でぶつかった――そして突然、ハリーの杖が、電流が貫いたかのように振動しはじめた。ハリーの手は杖を握ったまま動かなかった。いや、手を離したくても離せなかった――細い一筋の光が、もはや赤でもなく緑でもなく、眩まばゆい濃こい金こん色じきの糸のように、二つの杖を結んだ――驚いてその光を目で追ったハリーは、その先にヴォルデモートの蒼あお白じろい長い指を見た。同じように震ふるえ、振動している杖を握り締めたままだ。