わかっています。切ってはいけないことは……。ハリーはその調べに語りかけた。しかし、そう思ったとたん、切らないということが難しくなった。ハリーの杖つえがこれまでよりずっと激はげしく振動しはじめた……そして、ハリーとヴォルデモートを結ぶ光の糸も、いまや変化していた……それは、まるで、いくつもの大きな光の玉が、二本の杖の間を滑すべって、往いったり来たりしているようだった――光の玉がゆっくり、着実にハリーの杖のほうに滑ってくると、ハリーの手の中で杖が身み震ぶるいするのが感じられた。光線はいま、ヴォルデモートからハリーに向かって動いている。そして、杖が怒りに震えている。ハリーはそんな気がした……。
いちばん近くの光の玉がハリーの杖先にさらに近づくと、指の下で、杖の柄つかが熱くなり、そのあまりの熱さに、火を噴いて燃えるのではないかと思った。その玉が近づけば近づくほど、ハリーの杖は激しく震えた。その玉に触ふれたら、杖はそれ以上耐たえられないに違いないとハリーは思った。ハリーの手の中で、杖はいまにも砕くだけそうだった――。
ハリーはその玉をヴォルデモートのほうに押し返そうと、気力を最後の一いっ滴てきまで振り絞しぼった。耳には不死鳥の歌を一杯に響ひびかせ、目は激しくしっかり玉を凝ぎょう視しして……すると、ゆっくりと、非常にゆっくりと、光の玉の列が震えて止まった。そして、また同じようにゆっくりと、反対の方向へ動き出した……こんどはヴォルデモートの杖が異常に激しく震える番だった……ヴォルデモートは驚き、そして恐怖の色さえ見せた……。
光の玉の一つがヴォルデモートの杖先からほんの数センチのところでヒクヒク震えていた。ハリーは自分でもなぜそんなことをするのかわからず、それがどんな結果をもたらすのかも知らなかった……しかし、ハリーはいま、これまでに経験したことがないくらい神経を集中させ、その光の玉を、ヴォルデモートの杖に押し込もうとしていた……そして、ゆっくりと……非常にゆっくりと……その玉は金の糸に沿って動いた……一瞬いっしゅん、玉が震えた……そして、その玉が杖先に触れた……。