たちまち、ヴォルデモートの杖が、あたりに響き渡る苦痛の叫さけびを上げはじめた……そして――ヴォルデモートはギョッとして、赤い目をカッと見開いた――濃こい煙のような手が杖先から飛び出し、消えた……ヴォルデモートがワームテールに与えた手のゴースト……さらに苦痛の悲ひ鳴めい……そして、ずっと大きい何かがヴォルデモートの杖先から、花が開くように出てきた。何か灰色がかった大きなもの、濃こい煙の塊かたまりのようなものだ……それは頭部だった……次は胴体、腕……セドリックの上半身だ。
ハリーがショックで杖つえを取り落とすとしたら、きっとこのときだったろう。しかし、ハリーは、金こん色じきの光の糸がつながり続けるよう、本能的にしっかり杖を握り締めていた。ヴォルデモートの杖先から、セドリック・ディゴリーの濃い灰色のゴーストが(本当にゴーストだったろうか? あまりにしっかりした体だ)、まるで狭せまいトンネルを無理やり抜け出してきたように、その全身を現したときも、ハリーは杖を離さなかった……セドリックの影はその場に立ち、金色の光の糸を端はしから端まで眺ながめ、口を開いた。
「ハリー、がんばれ」その声は遠くから聞こえ、反響はんきょうしていた。ハリーはヴォルデモートを見た……大きく見開いた赤い目はまだ驚愕きょうがくしていた……ハリーと同じように、ヴォルデモートにもこれは予想外だったのだ……そして、ハリーは、金色のドームの外側をうろうろしている死し喰くい人びとたちの恐れ戦おののく叫さけびを微かすかに聞いた……。
杖がまたしても苦痛の叫びを上げた……すると杖先から、また何かが現れた……またしても濃い影のような頭部だった。そのすぐあとに腕と胴体が続いた……ハリーが夢で見たあの年老いた男が、セドリックと同じように、杖先から自分を搾しぼり出すようにして出てきた……そのゴーストは、いやその影は、いやその何だかわからないものは、セドリックの隣となりに落ち、ステッキに寄り掛かかって、ちょっと驚いたように、ハリーとヴォルデモートを、金色の網を、そして二本の結ばれた杖をじろじろ眺ながめた。
「そんじゃ、あいつはほんとの魔法使いだったのか?」老人はヴォルデモートを見ながらそう言った。「俺おれを殺しやがった。あいつが……やっつけろ、坊や……」