そのときすでに、もう一つ頭が現れていた……灰色の煙の像のような頭部は、こんどは女性だ……杖が動かないようにしっかり押さえて両腕をブルブル震ふるわせながら、ハリーはその女性が地上に落ちるのを見ていた。女性は他の影たちと同じように立ち上がり、目を見張った……。バーサ・ジョーキンズの影は、目の前の戦いを、目を丸くして眺ながめた。
「離すんじゃないよ。絶対!」その声も、セドリックのと同じように、遠くから聞こえてくるように反響はんきょうした。「あいつにやられるんじゃないよ、ハリー――杖を離すんじゃないよ!」
バーサも、ほかの二つの影のような姿も、金色の網の内側に沿って歩きはじめた。死し喰くい人びとが外側を右う往おう左さ往おうしている……ヴォルデモートに殺された犠ぎ牲せい者しゃたちは、二人の決けっ闘とう者しゃの周りを回りながら声をかけた。ハリーには激げき励れいの言葉を囁つぶやき、ハリーのところまでは届かない低い声で、ヴォルデモートを罵ののしっていた。
そしてまた、別の頭がヴォルデモートの杖先から現れた……一目見て、ハリーにはそれが誰なのかがわかった……セドリックが杖から現れた瞬間しゅんかんからずっとそれを待っていたかのように、ハリーにはわかっていた……この夜ハリーが、ほかの誰よりも強く心に思っていた女性なのだから……。
髪かみの長い若い女性の煙のような影が、バーサと同じように地上に落ち、すっと立ってハリーを見つめた……ハリーの腕はいまやどうにもならないほど激はげしく震ふるえていたが、ハリーも母親のゴーストを見つめ返した。
「お父さんが来ますよ……」女性が静かに言った。「お父さんのためにもがんばるのよ……大丈夫……がんばって……」
そして、父親がやってきた……最初は頭が、それから体が……背の高い、ハリーと同じくしゃくしゃな髪かみ。ジェームズ・ポッターの煙のような姿が、ヴォルデモートの杖つえ先さきから花開くように現れた。その姿は地上に落ち、妻と同じようにすっくと立った。そしてハリーのほうに近づき、ハリーを見下ろして、ほかの影と同じように遠くから響ひびくような声で、静かに話しかけた。殺さつ戮りくの犠ぎ牲せい者しゃに周りを徘はい徊かいされ、恐怖で鉛色の顔をしたヴォルデモートに聞こえないよう、低い声だった……。