「つながりが切れると、私たちはほんの少しの間しか留まっていられない……それでもおまえのために時間を稼いであげよう……移動キーのところまで行きなさい。それがおまえをホグワーツに連れ帰ってくれる……ハリー、わかったね?」
「はい」手の中から滑すべり落ちそうになる杖を必死で握りながら、ハリーは喘あえぎ喘ぎ答えた。
「ハリー」セドリックの影が囁ささやいた。「僕の体を連れて帰ってくれないか? 両親の許もとへ……」
「わかった」ハリーは杖を離さないために、顔が歪ゆがむほど力を込めていた。
「さあ、やりなさい」父親の声が囁いた。「走る準備をして……さあ、いまだ……」
「行くぞ!」ハリーが叫さけんだ。どっちにせよ、もう一いっ刻こくも杖をつかんでいることはできないと思った――ハリーは渾こん身しんの力で杖を上に捩ねじ上げた。すると金こん色じきの糸が切れた。光の籠かごが消え去り、不ふ死し鳥ちょうの歌がふっつりとやんだ――しかし、ヴォルデモートの犠牲者の影は消えていなかった――ハリーの姿をヴォルデモートの目から隠すように、ヴォルデモートに迫せまっていった。
ハリーは走った。こんなに走ったことはないと思えるほど走った。途と中ちゅうで呆あっ気けにとられている死し喰くい人びとを二人跳はね飛ばした。墓石で身をかばいながら、ジグザグと走った。死喰い人の呪のろいが追いかけてくるのを感じながら、呪いが墓石に当たる音を聞きながら走った――呪いと墓石をかわしながら、ハリーはセドリックの亡なき骸がらに向かって飛ぶように走った。足の痛みももはや感じない。やらなければならないことに、全身全霊を傾けて走った――。
「やつを『失神』させろ!」ヴォルデモートの叫びが聞こえた。
セドリックまであと三メートル。ハリーは赤い閃せん光こうを避よけて大だい理り石せきの天使の像の陰に飛び込んだ。呪じゅ文もんが像に当たり、天使の片かた翼よくの先が粉こな々ごなになった。杖をいっそう固く握り締め、ハリーは天使の陰から飛び出した――。
「インペディメンタ! 妨ぼう害がいせよ!」杖を肩に担かつぎ、追いかけてくる死喰い人に、当てずっぽうに杖先を向けながら、ハリーが叫んだ。