ハリーは地面に叩たたきつけられるのを感じた。顔が芝しば生ふに押しつけられ、草いきれが鼻び腔くうを満たした。移動キーに運ばれている間、ハリーは目を閉じていた。そしていまもそのまま目を閉じていた。ハリーは動かなかった。体中の力が抜けてしまったようだった。頭がひどくくらくらして、体の下で地面が、船のデッキのように揺ゆれているような感じがした。
体を安定させるため、ハリーはそれまでしっかりつかんでいた二つのものを、いっそう強く握り締めた――滑なめらかな冷たい優ゆう勝しょう杯はいの取っ手と、セドリックの亡なき骸がらだ。どちらかを離せば、脳みその端はしに広がってきた真っ暗くら闇やみの中に滑すべり込んでいきそうな気がした。ショックと疲労で、ハリーは地面に横たわったまま、草の薫かおりを吸い込んで待った……誰かが何かをするのを待った……何かが起こるのを待った……その間、額ひたいの傷きず痕あとが鈍にぶく痛んだ……。
突然耳を聾ろうするばかりの音の洪水で、頭が混乱した。四方八方から声がする。足音が、叫さけび声がする……ハリーは騒音に顔をしかめながらじっとしていた。悪夢が過ぎ去るのを待つかのように……。
二本の手が乱暴にハリーをつかみ、仰あお向むけにした。
「ハリー! ハリー!」
ハリーは目を開けた。
見上げる空に星が瞬またたき、アルバス・ダンブルドアが屈かがんでハリーを覗のぞき込んでいた。大勢の黒い影が二人の周りを取り囲み、だんだん近づいてきた。みんなの足音で、頭の下の地面が振動しているような気がした。
ハリーは迷めい路ろの入口に戻ってきていた。スタンドが上のほうに見え、そこに蠢うごめく人影が見え、その上に星が見えた。
ハリーは優勝杯を離したが、セドリックはますますしっかりと引き寄せた。空あいたほうの手を上げ、ハリーはダンブルドアの手首をとらえた。校長先生の顔がときどきぼーっと霞かすんだ。
「あの人が戻ってきました」ハリーが囁ささやいた。「戻ったんです。ヴォルデモートが」
第35章 吐真剂