「大丈夫だ、ハリー。わしがついているぞ……行くのだ……医務室へ……」
「ダンブルドアがここを動くなって言った」ハリーはガサガサに荒れた声で言った。傷きず痕あとがズキズキして、いまにも吐はきそうだった。目の前がますますぼんやりしてきた。
「おまえは横になっていなければ……さあ、行くのだ……」
ハリーより大きくて強い誰かが、ハリーを半ば引きずるように、半ば抱えるようにして、怯おびえる群衆の中を進んだ。その誰かがハリーを支え、人ひと垣がきを押しのけるようにして城に向かう途と中ちゅう、周囲から息を呑のむ声、悲ひ鳴めい、叫さけび声がハリーの耳に入ってきた。芝しば生ふを横切り、湖やダームストラングの船を通り過ぎた。ハリーには、自分を支えて歩かせているその男の荒い息いき遣づかい以外には何も聞こえなかった。
「ハリー、何があったのだ?」
しばらくして、ハリーを抱え上げて石段を上りながら、その男が聞いた。コツッ、コツッ、コツッ。マッド‐アイ・ムーディだ。
「優ゆう勝しょう杯はいは移動キーでした」玄げん関かんホールを横切りながら、ハリーが言った。「僕とセドリックを墓場に連れていって……そして、そこにヴォルデモートがいた……ヴォルデモート卿きょうが……」
コツッ、コツッ、コツッ。大だい理り石せきの階段を上がり……。
「闇やみの帝てい王おうがそこにいたと? それからどうした?」
「セドリックを殺して……あの連中がセドリックを殺したんだ……」
「それで?」コツッ、コツッ、コツッ。廊ろう下かを渡って……。
「薬を作って……身体を取り戻した……」
「闇の帝王が身体を取り戻したと? あの方が戻ってきたと?」
「それに、死し喰くい人びとたちも来た……そして僕、決けっ闘とうをして……」
「おまえが、闇の帝王と決闘した?」
「逃のがれた……僕の杖つえが……何か不思議なことをして……僕、父さんと母さんを見た……ヴォルデモートの杖から出てきたんだ……」
「さあ、ハリー、ここに……。ここに来て、座って……もう大丈夫だ……これを飲め……」
ハリーは鍵かぎがカチャリとかかる音を聞き、コップが手に押しつけられるのを感じた。
「飲むんだ……気分がよくなるから……さあ、ハリー、いったい何が起こったのか、わしは正確に知っておきたい……」
ムーディはハリーが薬を飲み干すのを手伝った。喉のどが焼けるような胡こ椒しょう味あじで、ハリーは咳せき込んだ。ムーディの部屋が、そしてムーディ自身が少しはっきり見えてきた……ムーディはファッジと同じくらい蒼そう白はくに見え、両眼りょうがんが瞬まばたきもせずしっかりとハリーを見み据すえていた。