「まさか、違う」ハリーが言った。「先生じゃない……先生がするはずがない……」
「わしがやった。確かだ」
ムーディの「魔法の目」がぐるりと動き、ピタッとドアを見み据すえた。外に誰もいないことを確かめているのだと、ハリーにはわかった。同時にムーディは杖つえを出してハリーに向けた。
「それでは、あのお方はやつらを許したのだな? 自由の身になっていた死し喰くい人びとの連中を? アズカバンを免まぬがれたやつらを?」
「何ですって?」ハリーはムーディが突きつけている杖の先を見ていた。悪い冗談じょうだんだ。きっとそうだ。
「聞いているのだ」ムーディが低い声で言った。「あのお方をお探ししようともしなかったカスどもを、あのお方はお許しになったのかと、聞いているのだ。あのお方のためにアズカバンに入るという勇気もなかった、裏切りの臆おく病びょう者ものたちを。クィディッチ・ワールドカップで仮面をかぶってはしゃぐ勇気はあっても、この俺おれが空に打ち上げた闇の印を見て逃げ出した、不実な、役にも立たない蛆うじ虫むしどもを」
「先生が打ち上げた……いったい何をおっしゃっているのですか……?」
「ハリー、俺は言ったはずだ……言っただろう。俺が何よりも憎むのは、自由の身になった死喰い人だ。いちばん必要とされていたそのときに、ご主人様に背を向けたやつらだ。あのお方がやつらを罰せられることを、俺は期待していた。ご主人様が、あいつらを拷ごう問もんなさることを期待した。ハリー、あのお方が連中を痛い目に遭あわせたと言ってくれ……」
ムーディは突然狂気の笑みを浮かべ、顔を輝かがやかせた。
「言ってくれ。あのお方が、俺だけが忠実であり続けたとおっしゃったと……あらゆる危険を冒おかして、俺は、あのお方が何よりも欲っしておいでだったものを、御おん前まえにお届けしようとした……おまえをな」
「違う……あ――あなたのはずがない……」
「別の学校の名前を使って、『炎ほのおのゴブレット』におまえの名前を入れたのは誰だ? この俺だ。おまえを傷きずつけたり、試合でおまえが優勝するのを邪じゃ魔まする惧おそれがあれば、そいつらを全員脅おどしつけたのは誰だ? この俺おれだ。ハグリッドを唆そそのかして、ドラゴンをおまえに見せるように仕向けたのは誰だ? この俺だ。おまえがドラゴンをやっつけるにはこれしかないという方法を思いつかせたのは誰だ? この俺だ」
ムーディの「魔法の目」がドアから離れ、ハリーを見み据すえた。歪ゆがんだ口が、ますます大きくひん曲がった。