「ポッター、おまえはあの湖で、ずいぶん長い時間かかっていた。溺おぼれてしまったのかと思ったぐらいだ。しかし、ダンブルドアは、おまえの愚かさを高こう潔けつさだと考え、高い点をつけた。俺おれはまたほっとした」
「今夜の迷めい路ろも、本来ならおまえはもちろんもっと苦労するはずだった」ムーディが言った。
「楽だったのは、俺が巡回していて、生いけ垣がきの外側から中を見み透すかし、おまえの行く手の障害物を呪じゅ文もんで取り除くことができたからだ。フラー・デラクールは、通り過ぎたときに呪文で『失神』させた。クラムにはディゴリーをやっつけさせ、おまえの優ゆう勝しょう杯はいへの道をすっきりさせようと、『服従ふくじゅうの呪じゅ文もん』をかけた」
ハリーはムーディを見つめた。この人が……ダンブルドアの友人で、有名な「闇やみ祓ばらい」のこの人が……多くの死し喰くい人びとを捕らえたというこの人が……こんなことを……わけがわからない……辻つじ褄つまが合わない……。
「敵鏡」に映った煙のような影が次第にはっきりしてきて、姿が明瞭めいりょうになってきた。ムーディの肩越しに、三人の輪りん郭かくがだんだん近づいてくるのが見えた。しかし、ムーディは見ていない。「魔法の目」はハリーを見み据すえている。
「闇やみの帝てい王おうは、おまえを殺し損そこねた。ポッター、あのお方は、それを強くお望みだった」ムーディが囁ささやいた。「代わりに俺がやり遂げたら、あのお方がどんなに俺を褒ほめてくださることか。俺はおまえをあのお方に差し上げたのだ――あのお方が、蘇よみがえりのために何よりも必要だったおまえを――そして、あのお方のためにおまえを殺せば、俺は、ほかのどの死喰い人よりも高い名めい誉よを受けるだろう。俺はあのお方の、もっともいとしく、もっとも身近な支持者になるだろう……息子よりも身近な……」
ムーディの普通の目が膨ふくれ上がり、「魔法の目」はハリーを睨にらみつけていた。ドアは閂かんぬきがかかっている。自分の杖つえを取ろうとしても、絶対に間に合わないと、ハリーにはわかっていた……。
「闇の帝王と俺は……」
ムーディはしゃべり続けた。いまや、ハリーの前にぬっと立ってハリーを毒々しい目つきで見下ろしているムーディは、まったく正気を失っているように見えた。
「……共通点が多い。二人とも、たとえば、父親に失望していた……まったく幻げん滅めつしていた。二人とも、父親と同じ名前をつけられるという屈辱くつじょくを味わった。そして二人とも、同じ楽しみを味わった……まったくのすばらしい楽しみだ……自分の父親を殺し、闇の秩ちつ序じょが確実に隆盛りゅうせいし続けるようにしたのだ!」
「狂ってる!」ハリーが叫さけんだ――叫ばずにはいられなかった――。「おまえは狂っている!」
「狂っている? 俺おれが?」ムーディは声が止めどなく高くなってきた。「いまにわかる! 闇やみの帝てい王おうがお戻りになり、俺があのお方のお側にいるいま、どっちが狂っているか、わかるようになる。あのお方が戻られた。ハリー・ポッター、おまえはあのお方を征服してはいない――そしていま――俺がおまえを征服する!」
ムーディは杖つえを上げた。口を開いた。ハリーはローブに手を突っ込んだ――。