「ステューピファイ! 麻ま痺ひせよ!」
目も眩くらむような赤い閃せん光こうが飛び、バリバリ、メキメキと轟ごう音おんを上げて、ムーディの部屋の戸が吹き飛んだ――。
ムーディはのけ反るように吹き飛ばされ、床に投げ出された。ハリーは、ついいましがたまでムーディの顔があったところを見つめた。「敵鏡てきかがみ」の中からハリーを見つめ返している姿があった。アルバス・ダンブルドア、スネイプ先生、マクゴナガル先生の姿だ。振り向くと、三人が戸口に立ち、ダンブルドアが先頭で杖を構えていた。
その瞬間しゅんかん、ハリーは初めてわかった。ダンブルドアが、ヴォルデモートの恐れる唯ただ一人の魔法使いだという意味が。気を失ったマッド‐アイ・ムーディの姿を見下ろすダンブルドアの形相ぎょうそうは、ハリーが想像もしたことがないほど凄すさまじかった。あの柔にゅう和わな微ほほ笑えみは消え、メガネの奥の目には、踊おどるようなキラキラした光はない。年を経た顔の皺しわの一本一本に、冷たい怒りが刻まれていた。体から焼けるような熱を発しているかのように、ダンブルドアの体からエネルギーが周囲に放たれていた。
ダンブルドアは部屋に入り、意識を失ったムーディの体の下に足を入れ、蹴けり上げて顔がよく見えるようにした。スネイプがあとから入ってきて、自分の顔がまだ映っている「敵鏡」を覗のぞき込んだ。鏡の中の顔が、部屋の中をじろりと見た。
マクゴナガル先生はまっすぐハリーのところへやってきた。
「さあ、いらっしゃい。ポッター」マクゴナガル先生が囁ささやいた。真一文字の薄うすい唇くちびるが、いまにも泣き出しそうにヒクヒクしていた。
「さあ、行きましょう……医い務む室しつへ……」
「待て」ダンブルドアが鋭するどく言った。
「ダンブルドア、この子は行かなければ――ごらんなさい――今夜一晩で、もうどんな目に遭あったか――」
「ミネルバ、その子はここに留まるのじゃ。ハリーに納得させる必要がある」ダンブルドアはきっぱり言った。「納得してこそ初めて受け入れられるのじゃ。受け入れてこそ初めて回復がある。この子は知らねばならん。今夜自分をこのような苦しい目に遭わせたのがいったい何者で、なぜなのかを」