竪たて穴あなのような、地下室のようなものが見下ろせた。三メートルほど下の床に横たわり、深々と眠っている、痩やせ衰おとろえ飢うえた姿。それが本物のマッド‐アイ・ムーディだった。木の義ぎ足そくはなく、「魔法の目」が入っているはずの眼がん窩かは、閉じた瞼まぶたの下で空からっぽのようだった。白はく髪はつ混まじりの髪かみの一部がなくなっていた。ハリーは雷に打たれたかのように、トランクの中で眠るムーディと、気を失って床に転がっているムーディをまじまじと見比べた。
ダンブルドアはトランクの縁ふちを跨またぎ、中に降りていき、眠っているムーディの傍かたわらの床に軽々と着地し、ムーディの上に身を屈めた。
「『失しっ神しん術じゅつ』じゃ――『服従ふくじゅうの呪じゅ文もん』で従わされておるな――非常に弱っておる」ダンブルドアが言った。「もちろん、ムーディを生かしておく必要があったじゃろう。ハリー、そのペテン師のマントを投げてよこすのじゃ。ムーディは凍こごえておる。マダム・ポンフリーに診みてもらわねば。しかし急を要するほどではなさそうじゃ」
ハリーは言われたとおりにした。ダンブルドアはムーディにマントをかけ、端はしを折り込んで包くるみ、再びトランクを跨いで出てきた。それから机の上に立てておいた携けい帯たい用よう酒さか瓶びんを取り、蓋ふたを開けてひっくり返した。床にネバネバした濃厚な液体がこぼれ落ちた。
「ポリジュース薬やくじゃ、ハリー」ダンブルドアが言った。「単純でしかも見事な手口じゃ。ムーディは、決して、自分の携けい帯たい用よう酒さか瓶びんからでないと飲まなかった。そのことはよく知られていた。このペテン師は、当然のことじゃが、ポリジュース薬やくを作り続けるのに本物のムーディをそばに置く必要があった。ムーディの髪かみをご覧……」
ダンブルドアはトランクの中のムーディを見下ろした。
「ペテン師はこの一年間、ムーディの髪を切り取り続けた。髪が不ふ揃ぞろいになっているところが見えるか? しかし、偽にせムーディは、今夜は興こう奮ふんのあまり、これまでのように頻ひん繁ぱんに飲むのを忘れていた可能性がある……一時間ごとに……きっちり毎時間……いまにわかるじゃろう……」
ダンブルドアは机のところにあった椅子を引き、腰かけて、床のムーディをじっと見た。ハリーもじっと見た。何分間かの沈ちん黙もくが流れた……。