「しかしお父上は逃げ出した」ダンブルドアが言った。
「そうだ。しばらくして、俺おれがやったと同じように、父は『服従ふくじゅうの呪じゅ文もん』に抵てい抗こうしはじめた。何が起こっているのか、父はときどき気がついた。ご主人様は、父が家を出るのはもはや安全ではないとお考えになった。ご主人様は父に魔ま法ほう省しょうへの手紙を書かせることにした。父に命じて、病気だという手紙を書かせた。しかし、ワームテールは義ぎ務むを怠った。十分に警けい戒かいしていなかった。父は逃げ出した。ご主人様は父がホグワーツに向かったと判断なさった。父はダンブルドアにすべてを打ち明け、告白するつもりだった。俺おれをアズカバンからこっそり連れ出したと自白するつもりだった」
「ご主人様は父が逃げたと知らせをよこした。あのお方は、何としてでも父を止めるようにとおっしゃった。そこで俺は待機して見張っていた。ハリー・ポッターから手に入れた地図を使った。もう少しですべてを台だい無なしにしてしまうかもしれなかった、あの地図だ」
「地図?」ダンブルドアが急いで聞いた。「何の地図じゃ?」
「ポッターのホグワーツ地図だ。ポッターは俺をその地図で見つけた。ポッターは、ある晩、俺がポリジュース薬やくの材料をスネイプの研究室から盗ぬすむところを地図で見た。俺は父と同じ名前なので、ポッターは俺を父だと思った。俺はその夜、ポッターから地図を取り上げた。俺はポッターに、『クラウチ氏は闇やみの魔法使いを憎んでいる』と言った。ポッターは父がスネイプを追っていると思ったようだ」
「一週間、俺は父がホグワーツに着くのを待った。ついにある晩、父が校庭内に入ってくるのを地図が示した。俺は透とう明めいマントをかぶり、父に会いに出ていった。父は禁じられた森の周りを歩いていた。そのときポッターが来た。クラムもだ。俺は待った。ポッターに怪け我がをさせるわけにはいかない。ご主人様がポッターを必要としている。ポッターがダンブルドアを迎えに走った。俺はクラムに『失しっ神しん術じゅつ』をかけ、父を殺した」
「あぁぁぁぁ!」ウィンキーが嘆なげき叫さけんだ。「坊っちゃま、バーティ坊っちゃま。何をおっしゃるのです?」
「君はお父上を殺したのじゃな」ダンブルドアが依い然ぜんとして静かな声で言った。「遺い体たいはどうしたのじゃ?」
「禁じられた森の中に運んだ。透とう明めいマントで覆おおった。そのとき俺は、地図を持っていた。地図で、ポッターが城に駆かけ込むのが見えた。ポッターはスネイプに出会った。ダンブルドアが加わった。ポッターがダンブルドアを連れて城から出てくるのを見た。俺は森から出て、二人の後ろに回り、現場に戻って二人に会った。ダンブルドアには、スネイプが俺に現場を教えてくれたと言った」
「ダンブルドアは俺に、クラウチ氏を探せと言った。俺は父親の遺い体たいのところに戻り、地図を見ていた。みんながいなくなってから、俺は父の遺体を変身させ、骨に変えた……その骨を、透明マントを着て、ハグリッドの小屋の前の掘ほり返されたばかりの場所に埋めた」
すすり泣きを続けるウィンキーの声以外は、物音一つしない。
やがて、ダンブルドアが言った。
「そして、今夜……」
「俺おれは夕食前に、優ゆう勝しょう杯はいを迷めい路ろに運び込む仕事を買って出た」バーティ・クラウチが囁ささやくように言った。「俺はそれを移動ポートキーに変えた。ご主人様の計画はうまくいった。あのお方は権力の座に戻ったのだ。そして俺は、ほかの魔法使いが夢見ることもかなわぬ栄えい誉よを、あのお方から与えられるだろう」
狂気の笑みが再び顔を輝かがやかせ、クラウチは頭をだらりと肩にもたせかけた。その傍かたわらで、ウィンキーがさめざめと泣き続けていた。