ファッジはスネイプからも後あと退ずさりした。頭を振っている。スネイプの言ったことの意味がわかっていないようだった。スネイプの腕の醜みにくい印に嫌けん悪お感かんを感じたらしく、じっと見つめて、それからダンブルドアを見上げ、囁ささやくように言った。
「あなたも先生方も、いったい何をふざけているのやら、ダンブルドア、私にはさっぱり。しかし、もう聞くだけ聞いた。私も、もう何も言うことはない。この学校の経営について話があるので、ダンブルドア、明日連れん絡らくする。私は役所に戻らねばならん」
ファッジはほとんどドアを出るところまで行ったが、そこで立ち止まった。向きを変え、つかつかと病室を横切り、ハリーのベッドの前まで戻って止まった。
「君の賞金だ」ファッジは大きな金貨の袋をポケットから取り出し、素そっ気けなくそう言うと、袋をベッド脇わきのテーブルにドサリと置いた。「一千ガリオンだ。授じゅ賞しょう式しきが行なわれる予定だったが、この状況では……」
ファッジは山やま高たか帽ぼうをぐいとかぶり、ドアをバタンと閉めて部屋から出ていった。その姿が消えるや否いなや、ダンブルドアがハリーのベッドの周りにいる人々のほうに向き直った。
「やるべきことがある」ダンブルドアが言った。「モリー……あなたとアーサーは頼りにできると考えてよいかな?」
「もちろんですわ」ウィーズリーおばさんが言った。唇くちびるまで真っ青さおだったが、決然とした面持ちだった。「ファッジがどんな魔法使いか、アーサーはよく知ってますわ。アーサーはマグルが好きだから、ここ何年も魔ま法ほう省しょうで昇進できなかったのです。ファッジは、アーサーが魔法使いとしてのプライドに欠けると考えていますわ」
「ではアーサーに伝言を送らねばならぬ」ダンブルドアが言った。「真実が何かを納得させることができる者には、ただちに知らさなければならぬ。魔法省内部で、コーネリウスと違って先を見通せる者たちと接触するには、アーサーは格好の位置にいる」
「僕が父のところに行きます」ビルが立ち上がった。「すぐ出発します」
「それは上じょう々じょうじゃ」ダンブルドアが言った。「アーサーに、何が起こったかを伝えてほしい。近々わしが直接連絡すると言うてくれ。ただし、アーサーは目立たぬように事を運ばねばならぬ。わしが魔法省の内ない政せい干かん渉しょうをしていると、ファッジにそう思われると――」
「僕に任せてください」ビルが言った。
ビルはハリーの肩をぽんと叩たたき、母親の頬ほおにキスすると、マントを着て足早に部屋を出ていった。