「セブルス」ダンブルドアがスネイプのほうを向いた。
「きみに何を頼まねばならぬのか、もうわかっておろう。もし、準備ができているなら……もし、やってくれるなら……」
「大丈夫です」スネイプはいつもより青ざめて見えた。冷たい暗い目が、不思議な光を放っていた。
「それでは、幸運を祈る」ダンブルドアはそう言うと、スネイプの後ろ姿を、微かすかに心配そうな色を浮かべて見送った。スネイプはシリウスのあとから、無言でさっと立ち去った。
ダンブルドアが再び口を聞いたのは、それから数分たってからだった。
「下に行かねばなるまい」ようやくダンブルドアが言った。「ディゴリー夫妻に会わなければのう。ハリー、残っている薬を飲むのじゃ。みんな、またあとでの」
ダンブルドアがいなくなると、ハリーはまたベッドに倒れ込んだ。ハーマイオニー、ロン、ウィーズリーおばさんが、みんなハリーを見ている。長い間、誰も口をきかなかった。
「残りのお薬を飲まないといけませんよ、ハリー」
ウィーズリーおばさんがやっと口を開いた。おばさんが、薬瓶くすりびんとゴブレットに手を伸ばしたとき、ベッド脇わきのテーブルに置いてあった金貨の袋に手が触ふれた。
「ゆっくりお休み。しばらくは何かほかのことを考えるのよ……賞金で何を買うかを考えなさいな!」
「金貨なんかいらない」抑よく揚ようのない声でハリーが言った。「あげます。誰でもほしい人にあげる。僕がもらっちゃいけなかったんだ。セドリックのものだったんだ」
迷めい路ろを出てからずっと、必死に抑えつけてきたものが、どっと溢あふれそうだった。鼻の奥がつんとして、目頭が熱くなった。ハリーは目を瞬しばたたいて天井を見つめた。
「あなたのせいじゃないわ、ハリー」ウィーズリーおばさんが囁ささやいた。
「僕と一いっ緒しょに優ゆう勝しょう杯はいを握ろうって、僕が言ったんだ」ハリーが言った。
熱い想いが喉のどまで下りてきた。ハリーは、ロンが目を逸そらしてくれればいいのにと思った。