いま私たちは「ロミオとジュリエット」の稽古中である。マイケル・ベントール氏の演出は、当然のことながら、英語でおこなわれる。通訳団が、それを役者たちに伝える。はじめのうちは、ずいぶんじれったかったが、このごろはこちらの耳もだいぶ馴れてきた。ベントール氏は、役者として長い経験を積んでいるだけあって、演技のクロッキーが、じつにみごとだ。言葉の足りないところは、それで十分に補ってゆく。そして私たちは毎日、その水も洩らさぬ演出ぶりに、眼をみはるような思いをしている。
新劇団が西洋から演出家を招いていっしょに仕事をしたのは、こんどがはじめてである。しかしそういうことを考えた人は、これまでにも何人かいたはずで、たとえば岸田国士先生はフランスからルイ・ジュヴェを招いて演出をしてもらうことを、本気で考えられた。当時先生は、その考えを第一次「劇作」の座談会でのべられたが、実現不可能な妄想として、あまり注目されなかったようである。
私たちはべつに、先生の考えを実現しようと考えたわけではなく、また、日本の演劇文化の向上のためには西洋の演出家を招くことがいちばん大切だなどと考えたわけでもない。私たちはいい芝居がしたいだけである。すでに手ごたえはある。八週間の稽古も、ようやく半ばに達した。これからが、たいへんである。
——一九六五年四月 新劇——