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決められた以外のせりふ124

时间: 2019-01-08    进入日语论坛
核心提示:ミンク 先日、友人のJ氏に誘われて、散歩ついでに、ミンクの飼育場へ行きました。J氏、夫人、高校へ行っているお嬢さんのN子
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 ミンク
 
 先日、友人のJ氏に誘われて、散歩ついでに、ミンクの飼育場へ行きました。J氏、夫人、高校へ行っているお嬢さんのN子さん、いずれも改めて氏だの夫人だのというのもおかしいくらい、昔からのつき合いです。
 生きているミンクにお目にかかったのは、はじめてですが、なかなかかわいいものです。いたちとりすの合の子のような顔をしている。せっせと餌をたべているのもあれば、元気に走りまわっているのもあり、長々と仰向けに寝そべって、うっとりと目をつぶっている奴もある。飼育場というだけあって、ブラック・ダイヤモンド、ダーク、ブルー・アイレス、パロミノ、パステル、サファイアなどという、色とりどりのミンクが何百匹とも知れず、ずらりと並んだ金網かごの中で生活しているありさまは、なかなかの壮観でした。
「ここは、客から直接注文を受けるらしいんだ」と、J氏が私に言いました。「つまり、こうして生きているうちから、気に入った毛色なり、毛並なりの奴を指定しておくと、一年後に、生れた子と合わせて九匹分の毛皮を渡してくれる。親のミンクの代金をはじめに払っておけば、後は毎月の飼育料を払い込むだけで、自然にミンクのストールが手にはいるという仕掛けさ。まあ、一種の月賦というわけだ」
「かわいそうだわ、そんなの」と、N子さんが眉をひそめました。現に目の前で、金網につかまって小さな桃色の舌を動かして水を飲んでいる小柄なロイヤル・サファイアや、きょとんとした顔つきで、首を傾けてこちらを見ている白い胸毛のスチュワード・サファイアを、あれこれと品定めするのは、なるほど、いかにも残酷な気がします。
 ところが、J夫人は、極めて自然に、あっさりと、J氏にこうたずねました。
「いくらぐらいなの、大体?」
 ミスとミセスは、これだけちがう。おもしろいものだ、と私は感心しましたが、きかれたJ氏は、いささかあわてた。あわてたあまり、夫人のあっさりに負けないくらいあっさりと、その九匹分の毛皮の値段を答えてしまいました。幸か不幸か、それは商店のショーウインドーの中に納まっているミンクのストールよりも、かなり安い値段だったのです。J夫人の魅力的な目が輝きました。J氏の顔を見ながら、微笑して「そう?……」
 みごとな沈黙でした。雄弁な沈黙、といってもいいかもしれません。気のせいか、J氏の顔つきが、なんとなく虚無的になりました。
「……臭いね、ミンクって奴は。すごいや。ねえ、君」と、私に救いを求めるかのように、話頭を転じてきた。同性のよしみとして、見殺しにするわけには行きません。
「新鮮な生肉しか食わないそうだね、こいつは。それに、見かけによらず獰猛《どうもう》らしい。餌をやろうとして、指を喰いちぎられたという話をきいたことがあるから、N子さん、あんまりそばへ寄らないほうがいい」
「ほんと?」とN子さん。
「へえ、強いのね」とJ夫人。
「もともと、カナダの原始林に棲息していた野獣ですからね」
「生活力は旺盛だろうな。闘争心もね」とJ氏。
「でも、ミンクって貞淑なんでしょ」とJ夫人。
 ここでJ氏は、また余計なことを言ってしまった。
「いや、一夫一婦は狐でね。ここで売る親のミンクは、トリオが単位なんだ。つまり、ワン・トリオは、雄一匹に雌二匹……」
 さすがに今度は、気がついて、途中で口をつぐみました。虚無的を通りこして、流れたような顔になった。
 N子さんは、金網の中でひくひく鼻を動かしている乱暴なわるい獣をじーっと見つめ、J夫人は、金網の中で走りまわっている逞しい生活力をもった美しい毛並の獣をじーっと見つめ、母と娘の顔は、おどろくほどよく似ていました。
 N子さんは、こんな獣は殺されて肩掛けや外套にされてしまうのが当然だと思いはじめているかもしれない。J夫人は——何を考えているのかわかりません。
 狩猟時代、遊牧時代のたくましい男の姿が、ちらと私の脳裡をかすめました。こういっても、けっしてJ氏に失礼には当らないはずです。たまに奥さんやお嬢さんの前で失言をすることはあっても、氏は強健で、誠実で、生活力に富み、壮年の男性美にあふれているうえに、学問風流を解する卓抜な実業家です。私の脳裡をかすめたのは、こういう奇妙な狩猟的遊牧的ショッピングに立ち会わざるを得なくなった現代男性のあわれさ、であったようです。J氏も同じ思いだったのでしょう、暗然とした面持で、煙草に火をつけました。
 と、その時です。金網のかごの中を縦横に走りまわり、柔軟なすばやい運動をしているパステル・ミンクにみとれていたJ夫人が、軽い溜め息とともに、こうつぶやきました。「かわいいわね」それから、笑いながら、こう付け加えました。「ねえ、ミンクの毛皮って、やっぱりミンクにいちばんよく似合うわね」
 帰りに、J氏は手打蕎麦をおごりました。ミンクと蕎麦とでは、たいへんな違いです。J氏は御機嫌でした。
 しかし私は、この勝負はまだついていないような気がします。いずれにしても、聡明な夫人は、きょうもせっせと家事に精を出しているはずです。
                                                     ——一九五五年 ミセス——
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