ふしぎ ふしぎ
ふたりの警官がガレージのとびらに、手をかけてひきあけようとしましたが、びくとも動きません。中からかぎをかけたらしいのです。それを見ると、ふたりの警官が、門のベルを押して中にはいり、その家の人たちを連れてきました。五十ぐらいの主人と若い秘書が、電人Mのことを聞いてびっくりして、合いかぎをもって、とびだしてきたのです。六人の警官と小林君たち三人と、主人とがガレージの前に、垣をつくるように、立ちふさがっていると、秘書が合いかぎをかぎ穴にさしこんで、カチンとまわしました。
サッと両方に開く鉄のとびら。ガレージの中はまっくらです。
三人の警官が照らす三つの懐中電灯の光の中に、青いシボレーの車体が浮きだしました。
「おやっ、だれもいないぞっ。」
自動車の中はからっぽでした。座席の下や、うしろのトランクも、調べましたが、どこにもかくれてはいません。ガレージの中は自動車でいっぱいになっていて、三方はコンクリートのかべ、床はコンクリートの上に鉄板がはりつめてあって、ぬけ道などは、まったくないのです。
「あっ、やっぱり3な……2458だ。電人Mが乗っていたのは、この自動車ですよ。」
小林少年が、車の番号を見て、さけびました。
警官たちは、かべや床を、たたきまわったり、自動車の下にもぐりこんだりして、できるだけ、調べましたが、どこにも怪しいところはありません。
「小林君、あいつはたしかに、ここにはいったのだろうね。まさか、きみがそんなみまちがいをするとは思えないが。」
警官のひとりが、困ったような顔をして、言いました。警官たちは、小林君が明智探偵の有名な少年助手だということを、よく知っているのです。
「けっしてまちがいじゃありません。あいつと治郎君は、ちゃんと車に乗っていたのです。そして車がガレージにはいると、すぐ、とびらがしまりました。それから、ぼくたちは、一度も、とびらから目をはなさなかったのです。じつにふしぎです。あいつは、やっぱり、魔法使いなのでしょうか。」
みんな、首をかしげたまま、考えこんでしまいました。ああ、これはいったい、どうしたわけなのでしょう。
警官のひとりが、そこに立っている主人にたずねました。
「この車は、あなたのですか。」
「そうです。六〇年のシボレーです。番号も合っています。すると、電人Mというロボットが、いつのまにか、わたしの車を盗みだして、使っていたのでしょうか。」
「そうとしか考えられませんね。あいつは、自動車のかぎも、このとびらのかぎも、あなたから盗むか、同じかぎをつくらせて、もっていたのでしょう。なにか心あたりはありませんか。」
「あっ、そういえば、一週間ほど前、その二つのかぎが、なくなったことがあります。しかし、二日ほどすると、ひょっこり、机の引出しから出てきたので、置き忘れたのだろうと思っていましたが、あのとき、盗みだして、型をとったのかもしれません。」
主人は、くやしそうに、言いました。この主人は、ある貿易商の重役で、桜井さんという人でした。
それにしても、電人Mは、なんという怪物でしょう。人間わざではできないことを、いくどとなく、やってみせたのです。ふしぎにつぐふしぎです。
いつかの晩は、遠藤博士のうちの階段をおりてきて、研究室にはいったかと思うと、そのまま消えてしまいました。
木村助手の見ている前で、目にみえないやつが、研究室のかべに、大きなMの字を、書きました。
また、今夜は、治郎少年が研究室に呼びこまれ、電人Mと争っている声がしていたのに、ドアをやぶってみると、部屋の中はからっぽでした。
研究室の窓には、ぜんぶ鉄格子がはめてあります。天井にも、床にも、かべにも、ぜったいに、秘密の出入口などありません。その密室の中から、電人Mだけではなくて、治郎少年まで消えてしまったのです。
そして、今はまた、このガレージのふしぎ。鉄板をはりつめた床、コンクリートのかべ、どこにも、逃げだす隙間はありません。その中にとじこもった三人が、忽然として、消えうせてしまったのです。
みなさん、いったい、このなぞを、どう解けばよいのでしょうか。それには、むろん、だれも気づかない、秘密があるのです。電人Mという怪物の知恵が、考えだしたトリックです。いつかは、その秘密が、わかるときがくるにちがいありません。
この事件には、もうひとつの、もっと大きな秘密があります。それは遠藤博士がどんな発明をしたかということです。世界をおどろかす大発明、これを使うと、世界じゅうが滅びてしまうほどの大発明、それはいったいなんでしょう。原爆や水爆ではありません。それらは、とっくに発明されているからです。
電人Mは、この遠藤博士の発明が、どういうものだか、ということを、うすうす知っているのです。それで、その秘密を自分のものにして世界をびっくりさせたいという野心をいだいたのです。
この悪者に、そんな大発明の秘密をにぎられたら、たいへんです。どんな恐ろしいことが起こるかわかりません。なんとしても、それは、防がなければなりません。
ところが、その悪者の電人Mが、遠藤博士の子どもの治郎君を、かどわかしてしまったのです。むろん、治郎君を人質にして、博士の発明の秘密と、引きかえにしようというのでしょう。
ああ、治郎君は、どこへつれていかれたのでしょうか。いまごろは、だれにも知られない、秘密の場所で、恐ろしい目に、あわされているのではないでしょうか。