名探偵のりだす
しかたがないので、小林少年とポケット小僧は、ひとまず探偵事務所へ、引き上げることにしました。事務所についたのは、もう夜の十一時ごろでした。
ほかの事件で、外に出ていた明智探偵も、事務所に帰っていましたので、小林君はポケット小僧といっしょに、書斎に行って、明智先生に、今夜のふしぎなできごとを報告しました。
ガレージの中で、人間が消えたばかりではありません。聞いてみると、遠藤博士の家には、いろいろふしぎなことがおこっているのです。
遠藤博士の化学研究室から、ときどき人間が消えるのです。
いつかの晩には、とつぜん、電人Mが二階からおりてきて、廊下を研究室の方へ曲がっていったそうです。その廊下は、行き止まりになっていて、どこにも出口はなく、そのつきあたりに、研究室と木村助手の部屋とが、向かいあっているのですが、電人Mは、そっちへ行ったまま、消えてしまったのです。研究室にも、木村助手の部屋にも、窓には、ぜんぶ鉄格子がはまっているので、窓から逃げることもできません。
それから、ゆうべは、電人Mと遠藤治郎君が、研究室から消えてしまったのです。博士がちょっと研究室を出た隙に、電人Mがそこにしのびこんで、博士の口まねをして、木村助手に治郎君を呼んでくるように、言いつけました。そして、治郎君が研究室にはいっていくと、電人Mが待ちかまえていて、治郎君をつかまえたのです。
博士が研究室に行ってみると、ドアにはかぎがかかっていました。そして、中から、電人Mと治郎君の争う声が聞こえました。博士はドアにぶっつかって、それをやぶり、研究室にとびこんでいきましたが、中はからっぽでした。窓の鉄格子にも、別条はありません。いままで、言い争っていた電人Mと治郎君は、かき消すように姿が見えなくなってしまったのです。
電人Mは忍術使いみたいなやつです。自分の姿ばかりでなく、他人の姿まで、消すことができるのです。
そのほかにも、いろいろ、ふしぎなことがありました。博士と木村助手の目の前で、姿のないやつが、研究室のかべに、大きなMという字を書いたのです。また、博士の自動車のヘッド・ライトのガラスに、いつのまにか、Mの字が書いてあって、それが塀に大きく写ったこともあります。
また、博士の寝室で、だれもいないのに、電人Mの声だけ聞こえたこともあります。
そして、今夜は、桜井さんのガレージのふしぎです。
「先生、あいつは、ほんとうに魔法使いなのでしょうか。」
小林少年が報告を終わると、明智探偵はニコニコ笑って、たずねました。
「きみはどう思うね。魔法だと思うかい。」
小林君はちょっと考えて、答えました。
「思いません。」
「すると、そういうふしぎは、どうして起こったのだろうね。」
「電人Mのトリックです。」
「そのトリックの秘密は?」
「ぼくには、わかりません。先生、先生の力で、調べてください。ぼくには、とてもわからないのです。」
「うん、調べてみるよ。あす、遠藤博士の家を、おたずねしよう。小林君、電人Mというやつは相手にとって不足のない大悪人だよ。いまに、あっというようなことが起こるから、見ていたまえ。
ところで、ポケット君、また、きみに一働きしてもらいたいんだが。
それはね、きみにうってつけの仕事なんだよ。」
明智探偵は、いつものようにニコニコしながら、声をひそめて、なにか話しはじめるのでした。