天井の目
そのあくる日の午前十時ごろに、明智探偵は小林少年を連れて、遠藤博士の家に行きましたが、それよりも早く、午前八時ごろ、博士邸に、へんなことが起こっていました。
グレーのセーターとグレーのズボン、グレーのベレー帽を、耳のところまで深くかぶって、幼稚園生のような小さな子どもが、遠藤博士邸の門から、リスのように、チョコチョコと、しのびこんで、だれもいない部屋の窓から、家の中へはいっていきました。
部屋から、廊下に出ると、あたりに気をくばりながら、かべにくっつくようにして、台所の方へ近づいて行きます。からだは小さいし、グレーの服をきているので、うすぐらい廊下ではまるで目につかないのです。
そして、台所に近い、一つの押入れの前に、たどりつきました。
そこの戸を、音のしないようにあけて、押入れの上の段にのぼりつき、中から戸をしめてしまったのです。まっくらです。
パッと、あかりがつきました。その子どもは懐中電灯を持っていたのです。
それで、押入れの天井を照らしました。それは、ふつうの、板を張った天井でした。その天井板を下から押してみました。すると、グラグラと動くのです。電灯工事のために天井裏にはいる出入口です。遠藤博士の家は、古い木造の西洋館で、二階になっているのは、ごく一部分で、平屋のところは、屋根裏に隙間があって、自由にはいれるようになっていたのです。
小さな子どもは、その天井板を押し上げて、そこにのぼり、屋根裏にしのびこんでいきました。
みなさん、この小さな子どもが、何者だか、もう、とっくにお気づきでしょう。
そうです。ポケット小僧です。ポケット小僧は明智探偵の命令で、こんな冒険をやっているのです。
電灯工事のための天井裏への通路というものは、どこの家でも、たいていは、台所に近い押入れの中にあるものです。
ポケット小僧は、そういうことを、ちゃんと、心得ていましたから、うまく、その出入口を捜しあてたのです。
ポケット小僧は、それから、しばらくの間、懐中電灯を照らしながら、ごみとクモの巣だらけの天井裏を、平べったくなって、はいまわり、目当ての部屋の上に近づいて行きました。
「あっ、ここだ!」
ポケット小僧は、天井にある四角な小さな穴から下をのぞいて見て、小声でつぶやきました。
それは、下にある部屋の、空気ぬきの穴でした。
穴の下がわには、鉄の網が張ってありましたが、それをとおして部屋のようすがよく見えます。
その下の部屋は、だれの部屋だったのでしょうか。
ポケット小僧はよく知っています。しかし、わたしたちには、まだわかりません。
ベッドがあります。机があります。その上に本が置いてあります。椅子があります。わりあいに質素な部屋です。
ポケット小僧は、天井の穴から、長い間、下をのぞいていました。
下の部屋に、だれかがはいってきました。そして、なんだかへんなことをはじめたのです。ポケット小僧は、胸をドキドキさせながら、じっと、それをみつめていました。
見るだけ見てしまうとポケット小僧は、なおも家中の天井裏をはいまわって、いろいろな秘密を発見しました。そして博士邸をぬけだしてタクシーで探偵事務所に帰り明智先生に報告しました。
それから、いよいよ明智探偵と小林少年が、遠藤博士をたずねることになるのです。