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马戏团里的怪人-观众席的头骨

时间: 2021-12-11    进入日语论坛
核心提示:客席の骸骨 ちょうどそのころ、サーカスの中では、まんなかの丸い土間(どま)に、はなやかな曲馬(きょくば)がおこなわれていまし
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客席の骸骨


 ちょうどそのころ、サーカスの中では、まんなかの丸い(どま)に、はなやかな曲馬(きょくば)がおこなわれていました。テントのそとにつないであった七頭の馬が、うつくしい女の子を乗せて、ぐるぐると回っているのです。金糸銀糸のぬいとりのあるシャツを着た女の子たちは、馬の上で、いろいろな曲芸をやって見せています。
 ふつうのサーカスの三ばいもあるような、広いテントの中は、むし暑いほどの満員の見物でした。見物席は板をはった上にござをしいて、見物はその上にすわっているのですが、正面の見物席のうしろの一だん高くなったところに、幕でかこった特別席が、ずっとならんでいます。ひとつのしきりに、六人ずつかけられるようになっていて、そういうしきりが、十いくつもならんでいるのです。
 その特別席の前には、すわっている見物のあたまが、ずっと、まんなかの演技場まで、いっぱいならんでいるのです。特別席の中ほどのすぐ前のところに、おとうさんと、おかあさんにつれられた、ひとりの小学生がすわっていました。五年生か六年生ぐらいの少年です。
 その少年が、ふと、うしろをふりむきました。見物はみんな演技場のほうを、むちゅうになって見つめているのに、この少年だけが、なぜか、ひょいとうしろを見たのです。
 天井も、左右も、幕でしきられた箱のような特別席が、ずっとならんでいます。どの席にも五、六人の男や女の顔がかさなりあっていましたが、まんなかへんの、ひとつのしきりには、まるで歯のぬけたように、がらんとして、だれもいないのです。そこだけ、へんにうす暗くて、ほら穴の入口のような感じなのです。
 そのからっぽの席へ目がいったとき、少年は、なぜかゾーッとしました。うす暗いしきりのなかに、ボーッと、白いものが浮きあがって見えたからです。
 それは大きな黒めがねをかけた人間の顔のようでしたが、すぐに、そうでないことがわかりました。黒めがねではなくて、二つの黒い穴なのです。鼻のあるところも、三角の穴になっていました。そして、その下に、白い歯がむき出しています。……骸骨です。骸骨の顔だけが、宙に浮いていたのです。
 少年はギョッとして、そのまま、正面にむきなおりました。そして、サーカスの見物席に骸骨がいるはずはない、きっと、ぼくの目がどうかしていたのだ。と、じぶんにいい聞かせましたが、もう曲馬など目にはいりません。やっぱりもう一ど、うしろを見ないでは、いられなかったのです。
 こわいのをがまんして、ヒョイとふりむきますと、やっぱり、そこには、骸骨の顔が浮いていました。いや、よく見ると浮いているのではなくて、骸骨がソフトをかぶって、オーバーを着て腰かけているのです。ソフトやオーバーが、ねずみ色なので、ちょっと見たのではわからなかったのです。顔だけが宙に浮いているように見えたのです。
 なんど見なおしても、骸骨にちがいないので、少年はとうとう、隣のおとうさんのからだをゆすぶって、
「おとうさん、うしろに、へんなものがいる!」とささやき、そのほうを指さして見せました。
 おとうさんは、びっくりして、うしろをふりむきました。それに気づくと、おかあさんもふりむきました。だれの目にも、それは骸骨としか見えないのです。
「アラッ!」
 おかあさんが、びっくりして、おもわずかん高い声をたてました。
 すると、その近くにいた見物の人たちが、みんな、うしろをふりむいたのです。そして、オーバーを着た骸骨を見たのです。
 見物席いったいが、にわかに、ざわめきはじめました。大テントの中の千人いじょうの見物の顔が、全部うしろをむいたのです。そして、特別席のあやしいものを見つめました。もうだれひとり曲馬など見ている人はありません。
 そのとき、まんなかの丸い演技場のはじのほうを、数人の人が走ってきました。さきにたっているのは、井上少年とノロちゃんです。そのあとからサーカスのかかりの人が三人、走ってくるのです。井上君は骸骨のいる特別席を指さして、「あすこだ、あすこだ。」と、おしえています。
 そのさわぎに、演技場をぐるぐる回っていた七頭の馬も、ぴったりとまってしまいました。それらの馬の背なかで、曲芸をやっていた少女たちも、いっせいに特別席のほうを見つめています。
 大テントの中の全部の人の顔という顔が、特別席を見つめたのです。
 特別席の骸骨紳士は、何千の目に見つめられても、べつに、あわてるようすはありません。かれは、しずかにイスから立ちあがりました。そして、特別席の前のほうへ、ズーッと、出てきたのです。恐ろしい骸骨の顔が、電灯の光をうけて、くっきりと浮きあがりました。
 それを見つめている千の顔は、まるで映画の回転が、とつぜん、とまってしまったように、すこしも動きません。声をたてるものもありません。大テントの中は、一瞬、死んだように、しずまりかえったのです。
 骸骨紳士は、特別席のしきりの前にあるてすりにもたれて、ぶきみな白い顔を、ヌーッと、見物たちのほうへつき出しました。そして、にやりと笑ったのです。くちびるのない歯ばかりが、みょうな形に開いて、ゾッとするような笑いかたをしたのです。
 見物席のあちこちに、「キャーッ!」という、ひめいがおこりました。息をころして怪物を見つめていた見物席が、(いね)のほが風にふかれるように、波だちはじめました。みんなが席を立って逃げだそうとしたからです。
 そのとき、井上君とノロちゃんをさきにたてた、サーカスの男の人たちは、見物のあいだをかきわけて、骸骨紳士の席へ近づいていました。そのあとからは、べつのサーカスの人たちが、ふたりの警官といっしょにかけつけてきます。
「ウヘヘヘヘ……。」
 なんともいえないきみのわるい笑い声が、大テントの中にひびきわたりました。骸骨紳士がみんなをあざけるように、大笑いをしたのです。そして、サーッと特別席のおくのほうへ、身をかくしました。
 そのしきりのうしろにも、幕がさがっています。そこから、そとへ逃げだすつもりでしょう。
「アッ、逃げたぞッ。みんな、うしろへまわれッ!」
 だれかが叫びました。サーカスの男たちは、特別席のはじをまわって、そのうしろへ走っていきます。

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