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妖怪博士-明智在此

时间: 2021-10-25    进入日语论坛
核心提示:明智はここにいる そうしているところへ、書斎のドアの外にドカドカと大ぜいの足音がして、何かはげしくいいあらそっている声が
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明智はここにいる


 そうしているところへ、書斎のドアの外にドカドカと大ぜいの足音がして、何かはげしくいいあらそっている声が、部屋の中まで聞こえてきました。
 なにごとがおこったのかと、中村係長がドアをひらいてみますと、その廊下に、部下の刑事たちと見なれぬ数名の背広姿の男とが、口々に何かわめきながら、もみあっているのでした。
「どうしたんだ。その人たちは、いったい何者だ。」係長が大声でたずねますと、刑事のひとりが、
「新聞記者です。いくらとめても、殿村さんと約束がしてあるんだから、どうしても入れろといって聞かないのです。」と、申しわけなさそうに答えました。
 すると、殿村探偵は、その声を耳さとく聞きつけて、ヨチヨチとドアのところへやってきました。
「やあ、新聞記者諸君か。よく来てくれた。さあ、かまわんからはいりたまえ。中村さん、この連中は、わしがここへ来るまえに電話で知らせておいたのですよ。二時間ほど後に、この犯罪事件の真相を発表するからといってね。」
「そんなことをしてくださってはこまりますね。まだわれわれは犯人もとらえていないのだから……。」
 中村係長は顔をしかめて、殿村をなじりました。
「犯人? ハハハ……、犯人も、やがてわしがとらえてお目にかけますよ。中村さん、そんなにこわい顔をしないで、まあ、ここはわしにまかせてください。四人の子どもをぶじに取りもどした功労にめんじて大目に見ておいてください。」そういわれてみますと、いかにも殿村はひじょうな手がらをたてたばかりなのですから、係長も、しいてとめだてするわけにもいきませんでした。それに、これほどの名探偵のことですから、新聞記者を呼びいれたのにも、何か深い考えがあるかもしれません。中村係長は、不承不承に一歩あとへさがって、新聞記者たちの室内へはいるのを黙許(もっきょ)しました。
「さあ、諸君、こちらへ来たまえ。そして、こわれた石膏像と四人の少年を見てくれたまえ。これが、れいの誘拐された相川、大野、斎藤、上村の四少年じゃ。なに、写真? この子どもたちの写真をとりたいというのか、よろしい。とりたまえ。じゃが、そのまえにもう一つ、諸君に見せるものがある。
 それはほかでもない。例の製作会社の機密文書じゃ。わしは、それがどこにかくしてあるかも、ちゃんと知っている。ちょうど諸君が来られたから、諸君の目の前で、あの重要書類をさがしだしてお目にかけることにしよう。さがすといっても、なあにぞうさはないのじゃ。ほら、それはここにある。ここじゃ、このくずかごの中じゃ。」
 殿村はじょうだんのように言いながら、部屋のまんなかの大机に近より、その下においてあった大きなくずかごの中から、クシャクシャにまるめた書類のたばを取りだしてみせました。
「相川さん、これがあなたの金庫からぬすみだされた書類かどうか、ひとつしらべてみてください。」
 相川技師長はそれを聞きますと、ハッと顔色をかえて、殿村のそばにかけより、いきなり書類をひったくりました。たいせつな機密文書を、新聞記者などの前でひろげられては、たいへんだと思ったからです。それから、部屋のすみに行って、パラパラとページをくってしらべていましたが、ていねいに紙のしわをのばして二つに折りますと、たいせつそうに洋服の内ポケットにしまいこむのでした。
「相川さん、そうしてポケットにおしまいなさったところを見ると、どうやらほんものらしいですね。まったく例の機密文書にそういありませんか。」
「たしかにぬすまれた書類です。さいわい紙数もちゃんとそろっていました。しかし、あんなに苦心をしてぬすみだした書類を、くずかごの中へほうりこんでおくなんて、いったいこれは、どうしたことでしょう。」相川技師長は、さもふしぎそうに、殿村探偵の顔を見つめました。
「ハハハ……、相川さん、これはあんた方の、あたりまえの頭ではわかりません。相手は手品使いなのじゃ。手品使いというものはね、見物の目をぬすむために、じつに思いもよらぬ、とっぴな手を考えるものじゃ。」
 よろしいかな。やつは、まず四人の子どもを、四つの石膏像の中にかくした。これも手品使いの芸当じゃ。それと同じことで、書類のほうも、だれが考えても、まさかと思うような、きばつな場所へかくしたのじゃ。いくらなんでも、あれほどたいせつな書類が、紙くずどうぜんに、くずかごの中へほうりこんであろうなどと、だれが考えるじゃろう。しかも、クシャクシャにまるめてほうりこんであるのじゃ。
 さがすほうでは、かぎのかかったひきだしとか、秘密の戸だなとか、そういうむずかしい場所にばかり気をつける。くずかごなんか、てんでふりむきもしませんのじゃ。ところが、かしこい泥棒は、そのだれもふりむかんようなところへ、もっともたいせつなものをかくしておく。これは紙くずですよ、つまらないものですよといわぬばかりに、いつでも人の目につく場所へ、ほうりだしておく。これが手じゃ。手品師の種じゃ。おわかりかな。」
 せむし探偵は、ここでまた、いちだんと男をあげました。専門家の中村捜査係長でさえも、このむぞうさな書類の発見には、ため息をついて感心したほどですから、新聞記者たちが目をまるくしたのも、むりではありません。
 殿村探偵はとくい満面でした。まがった背中をむりにのばして、ごうぜんとそっくりかえり、右手には例のまがりくねったステッキをつき、左手のおや指を、チョッキのわきの下にかけて、残った四本の指で自分の胸をハタハタと、拍子をとるようにたたきながら、演説でもするようにしゃべりはじめました。
「さて、新聞記者諸君、四人の少年と機密文書とが、どんなに思いもよらぬ場所にかくしてあったか、また、それをわしが、どんなに手ぎわよく発見したか、それは諸君が今ごらんになったとおりじゃ。それだけでも、あすの朝刊に、三段や五段の記事にはことかかぬじゃろう。
 だが、それにつけくわえて、わしはもう一つ重大なことを報告したいのじゃ。というのは、ほかでもない。この事件には、名探偵といわれる明智小五郎が、わしよりも早くから手をつけていたことじゃよ。よいかな。諸君がいつも、日本一の名探偵と書きたてている、あの明智だよ。
 つまり、こんどの事件では、わしと明智とが一騎うちの勝負をあらそったわけだが、その結果はごらんのとおりじゃ。名もない一私立探偵の殿村弘三が、みごとに明智の鼻をあかしたのじゃ。
 諸君、このことを一つ、はっきりと世間に伝えてもらいたい。こんにちただ今から、明智はもう日本一の名探偵ではない、殿村という新しい探偵があらわれたのじゃ。そして明智先生のじまんの鼻をへし折ったのじゃ。フフン、名探偵が聞いてあきれるわ。あの先生、今ごろどこをうろつきまわっていることか、あす、この事件が新聞にでるのを見て、やっこさん、さだめしきもをつぶすことであろう。ハハハ……、わしはとうとう、あいつをやっつけたぞ。こきみよくやっつけたぞ。
 諸君、このことをひとつデカデカと書きたててくれたまえ。よいかな、名探偵明智小五郎みごとにしょい投げを食うとな。ワハハハ……。ああ、明智先生の顔が見たいものじゃ。あの先生、このわしに向かって、かならず三日のあいだに事件を解決してみせると、えらそうに広言しよったが、その三日が二時間あまりで切れるという今ごろになっても、この賊のかくれがさえ、さがしだすことができないのじゃ。ワハハハ……おい、おい、明智先生、きみはいったい、どこを、うろうろしてござるのじゃ。」
 殿村がとくい満面、黄色い歯をむきだし、つばをとばしながら、そこまでしゃべったときでした。とつじょとして、部屋の中にみょうな笑い声がおこりました。
「ワハハハ……。」殿村の笑い声にもおとらぬ高笑いです。それが、さもおかしくてたまらないというようにいつまでもつづいているのです。
 せむし探偵はびっくりしたように話をやめて、声のするほうをにらみつけました。
「だれじゃ。そこで笑っているのはだれじゃ。わしが真剣に話をしているのに、笑うとはけしからん。やめんか。こら、やめんかというに。」
 するとそれに答えるように、新聞記者の一団のあいだから、ひとりの男が前に進みでてきました。服装を見れば、やっぱり新聞記者のひとりらしいのですが、その男はまだ笑いのとまらぬにこにこ顔で、殿村探偵の目の前に立ちはだかりました。
「殿村君、明智はここにいるよ。きみはいま明智はどこにいる、明智の顔が見たいとどなっていたが、それほど見たければ、ひとつこの顔をよく見てくれたまえ。」
 それを聞きますと、殿村はギョッとしたように、顔色をかえて、二、三歩あとじさりしました。見れば、新聞記者らしい服装はしていますけれど、たしかに明智探偵にちがいないのです。
「ハハハ……、なんだかひどくおどろいているようじゃないか。さいぜんから新聞記者諸君のうしろにかくれて、きみの大演説を拝聴(はいちょう)していたんだよ。なかなかうまいもんだねえ。おかげで、ぼくはすっかりおなかの皮をよってしまったぜ。」明智探偵は、歯切れのいい口調で殿村をからかって、またしても、さもおかしそうに笑いだすのでした。

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