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妖怪博士-二十面相的戏法

时间: 2021-10-26    进入日语论坛
核心提示:二十面相の魔術 明智を見送って座敷に帰った小泉氏は、もう気が気でありません。うまく信雄を取りもどしてくれるかしら、もしや
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二十面相の魔術


 明智を見送って座敷に帰った小泉氏は、もう気が気でありません。うまく信雄を取りもどしてくれるかしら、もしや掛け軸がにせものとわかって、あの子がおそろしいめにあうようなことはないかしらと、立ったりすわったり、時計の針ばかりながめくらすのでした。
 信雄君のおかあさまの小泉夫人とて同じことです。小泉氏のそばにすわって、おたがいの青い顔、おびえた目を見かわしながら、ものをいう元気もなく、時のたつのを待つばかりです。十分、二十分、三十分、ああ、なんという待ちどおしい、長い長い時間だったでしょう。おかあさまなどは、あまり胸がドキドキするものですから、このまま重い病気にかかって、死んでしまうのではないかとお思いになったほどです。
 しかし、とまっているのではないかと思うほど、のろい時計も、いつのまにか針が進んで、やがて夜中の一時まぢかくなったときでした。待ちに待った、玄関のこうし戸のベルの音がして、女中の立ちさわぐけはいがしたかと思うと、だれかが廊下をバタバタと走ってくる音が聞こえました。
「まあ、信雄さんじゃありませんか。」おかあさまは、いきなり縁がわの障子をひらいて、ころぶようにそのほうへ走りよりました。
「おかあさん!」うわずった少年のさけび声がして、おかあさまともつれあうようにしながら、座敷へとびこんできたのは、やっぱり信雄君でした。
「おお、信雄か。」小泉氏も思わず立ちあがりました。
「よく帰ってきたねえ。どんなに心配したかしれやしないよ。で、明智さんは……。」
「エッ、明智さんですって。」信雄君は、けげんな顔で聞きかえしました。
「おや、それじゃ、おまえは明智さんには会わなかったのかい。明智さんはね、おとうさんとそっくりの姿に変装して、二十面相のところへ、おまえを取りもどしにいらしったのだよ。おまえ、それを気づかなかったのかい。」
 信雄君は夕方からの疲労のために、グッタリと部屋のまんなかにすわったまま、おとうさまを見あげて、いっそうふしぎそうな顔をしました。
「ぼく、そんな人に会いません。おかしいな。」
「それじゃ、おまえはどうして、逃げだしてくることができたのだい。むろんおまえは、今まで二十面相のところにとりこになっていたんだろう。」
「ええ、そうなんです。おとうさん。ぼくの書いた手紙ごらんになりましたか。あれ、二十面相に脅迫されて、むりに書かされたんです。でも、書いてあることは、うそじゃないのです。ぼくは思いだしても、ゾッとするような、おそろしいめにあわされたんです。」
 そして、信雄君は、夕方からのできごとを、どもりどもり、かいつまんで物語りました。
 おとうさまもおかあさまも、信雄君の話が進むにつれて、まるで、そのおそろしい動く天井が、いま、目の前で、わが子の頭上に落ちてでもくるかのように、ハラハラしながら、手に汗をにぎって聞きいるのでした。
「そしてね、ぼくにあの手紙を書かせると、二十面相はどっかへ行ってしまって、いくら待ってもその、みょうな部屋から出してくれないのです。天井はもう落ちてこなくなったけれど、ぼくは、このまま飢死(うえじ)にするんじゃないかと、どんなにおそろしかったかしれやしない。長い長いあいだ、ほんとうに、ぼくは一月もたったように思ったけれど、まだ同じ日の夜だったのですね。今から三十分ほどまえにね、とつぜんその鉄の部屋のドアのそとに、カチカチっていう音がしたんです。
 二十面相がドアのかぎをまわして、ひらくようにしたんですよ。そしてね、さあ、もういいから帰れって言うんです。で、ぼくはいきなりドアをひらくと、外へとびだしたんだけれど、もうそのへんにはだれもいないのです。二十面相は、どっかへ姿をかくしてしまったんです。
 ぼくはこわくってしょうがないので、そのままいっしょうけんめいに玄関のほうへかけだしちゃった。するとね、ぼくのうしろから、追っかけるように、あいつのしわがれ声がひびいてきたんです。わすれられやしない。おうちへ帰ったら、おとうさんにこう言うんだって、あのね、おとうさんにね、すぐ明智探偵のところへ電話をかけなさいって。」
「フーン。明智さんのところへ電話をかけろって? それはいったいどういうわけだろうね。あいつがでたらめを言ったんじゃあるまいね。」
「そうじゃありません。同じことを二度も三度も、ぼくが玄関を出るまで、うしろからどなっていたんですもの。これはたいせつなことだから、わすれるんじゃないって。」
「そうか。それじゃあ、ともかく電話をかけてみよう。明智さんのことも心配だからね。たぶんまだ帰っていないだろうが、今ごろまで何も報告してこないのはおかしいよ。」
 小泉氏はおかあさまと信雄君を座敷へ残したまま、急いで書斎に行って、卓上電話で明智の事務所を呼びだしました。すると意外にも、明智探偵は事務所にいるという返事で、まもなく電話口に明智の声が聞こえてきたではありませんか。
「信雄は今帰りました。どうもお骨折りありがとう。わたしは、あなたがこちらへお立ちよりくださることとばかり思っていましたが……。」
「え、なんですって? おっしゃることがよくわかりませんが、なにかのおまちがいじゃありませんか。」
 明智はみょうな返事をしました。
「いいえ、あなたのおかげで子どもがぶじに帰ったと申しあげているのですよ。」
「それがわからないのです。わたしはある用件で外出して今帰ったところですが、あなたの子どもさんのことなど、少しもぞんじませんよ。ああ、そうそう、夕方あなたから、何か重大な相談があるからって、お電話がありましたね。しかし、すぐそのあとから、あなたご自身で、もう来るにはおよばないって、また電話だったものですから、わたしはほかの用件で外出したのですよ。」
「エッ、わたしが二度お電話しましたって。」
「そうですよ。おわすれになったのですか。」
「それはへんです。わたしは一度お電話したばかりです。いや、そんなことよりも、あなたは、ちゃんとああして、わたしのお宅へおいでくださったじゃありませんか。そして、このわたしに変装なすって、例の掛け軸を……。」
「もしもし、どうもぼくにはふにおちないことばかりです。これには何かしさいがあるのかもしれません。いったい何があったのですか。お子さんがどうかなすったのですか。」
 小泉氏はそれを聞くと、なんともいえぬおどろきのために、まっさおになってしまいました。
「それじゃあ、あなたは、わたしの宅へは、一度もいらっしゃらなかったというのですか。」
「そうです。一度もおうかがいしません。ところがあなたのほうでは、わたしがおうかがいしたとおっしゃるのですね。おかしいですね……。もしや、これは例の二十面相に関係のあることではありませんか。」
「そうです。二十面相が、子どもを監禁したのです。しかし、その子どもは今、別状なく帰宅しましたがね。それにしても、どうもふにおちぬことがあるのですが。」
 二十面相と聞きますと、電話口の明智の声のちょうしが、にわかにかわりました。
「待ってください。こんなことを電話でお話しするのもなんですから、おそくてもおかまいなければ、わたし、今からおじゃましたいと思いますが。」
「そうですか。そうしてくだされば、わたしのほうもたいへんありがたいのですが。ではお待ちしますから、すぐいらしってください。」
 受話器をかけて、小泉氏はキツネにでもつままれたような顔で、イスにかけたまま、しばらくは身動きもしないでぼんやりしてしまいました。
 それから三十分ほど後、つまり深夜の一時半ごろなのですが、小泉氏の応接室には電灯が、あかあかとついて、そこの丸テーブルのまわりには、いま自動車でかけつけたばかりの明智探偵と助手の小林少年、主人がわの小泉氏と信雄君の四人が、ひたいを集めて、ねっしんに話しあっていました。
「いったいこれはどうしたことでしょう。わたしには何がなんだかさっぱりわけがわかりませんよ。あなたのお話をうかがってみると、さいぜんの明智さんは、にせ者だったとしか考えられません。それにしても、今こうしてお話しているあなたと、まったくそっくりの人物でしたよ。ああまでよく似た替え玉があるものでしょうかね。」
 小泉氏は明智探偵のことばを信じないようなおももちでした。
「そのにせの明智が、さらにまたあなたに変装したのですね。その変装ぶりはどうでしたか。」明智がたずねますと、小泉氏はびっくりしたような顔をしました。
「おお、そういえば、じつにふしぎです。その男は、たった十分か二十分の間に、こんどはわたしとそっくりの姿に化けてしまったのです。あいつはまるで化けものです。自由自在に顔形がかえられる怪物です。」
「そうですよ。この東京にたったひとり、そういうふしぎな芸当のできる男がいるのです。たしかにあいつは二十のちがった顔を持っている怪物ですよ。」
「エッ、なんですって、ではあいつが……。」小泉氏はギョッとしたように、顔色をかえてさけびました。
「そうですよ。二十面相というやつは、そういう大胆不敵(だいたんふてき)なまねをして喜んでいるのです。そんなたくみな変装のできるやつが、ほかにあろうとは考えられません。むろんあいつ自身がぼくに化けてお宅へやってきたのですよ。あいつは、あなたがぼくに電話をかけられたのを知って、すぐそのあとから、あなたの声をまねて、ぼくのところへ取りけしの電話をかけたのですよ。そうしておいて、ぼくの替え玉になって、ここへやってきたのです。」
 読者諸君はこの明智のことばによって、思いあたるところがおありでしょう。夕方、怪老人に化けた二十面相が、小泉氏の電話を立ちぎきして、そのまま近くの公衆電話へかけこんだのには、そういう目的があったのです。
「しかし、どうもおかしいですね。にせ者にもせよ、あの男はわたしに好意を示して、雪舟の名画を賊にわたさないでもすむように取りはからってくれたんですよ。にせの掛け軸を持って二十面相に会いに出かけていったのですよ。二十面相が、二十面相自身をだますなんて、これはいったい、どうしたというのでしょう。」
 小泉氏はやっぱりふにおちぬていです。
「お気のどくですが、だまされたのは二十面相ではなくて、あなただったのです。」明智が何もかも知りぬいているように答えました。
「エッ、わたしがだまされたといいますと……。」
「ほんものの雪舟の掛け軸は、どこにおしまいになってあるのですか。」
「蔵の中ですが、蔵の中に金庫がすえてあって、その中にげんじゅうに入れてあるのです。」
「それじゃあ、その金庫をひとつしらべてくださいませんか。おそらく雪舟の掛け軸は、もうなくなっていると思います。」
「エッ、なんですって、あなたは、どうしてそんなことが……。」
「まあ、とやかくいっているよりも、早く金庫の中をたしかめてごらんなさるほうがいいでしょう。」明智の確信のあるらしいことばに、小泉氏はもうまっさおになってしまって、「では、ちょっと失礼。」といいすてて、あたふたと応接室を出ていきました。むりはありません。その掛け軸は国宝にまで指定されている家宝なのですから。
 そして、しばらくしますと、ドアのところに、がっかりとしょげかえった小泉氏の姿があらわれました。
「明智さん、やっぱりおっしゃるとおりでした。わたしはまんまといっぱい食わされたのです。あいつの手品に引っかかったのです。賊に信用させるために、にせものをほんものの箱へ入れかえて持っていったのですが、その入れかえをするとき、あいつは手品を使ったのにちがいありません。今見れば、金庫の中のその箱には、あいつの持っていったはずの、にせもののほうがはいっているのです。ああ、こんなことと知れば、もっと用心するのでしたのに、取りかえしのつかぬこととなってしまいました。」小泉氏は、そう言いながら、グッタリと安楽イスに身を投げて、腕組みをしたままうなだれてしまいました。

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