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时间: 2019-03-18    进入日语论坛
核心提示:    3 グスタフ・フォン・マイヤーの話は本村英人をひどく興奮させた。だが、翌朝、短い眠りから覚めた時にはそれも収って
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 グスタフ・フォン・マイヤーの話は本村英人をひどく興奮させた。だが、翌朝、短い眠りから覚めた時にはそれも収っていた。そして、本村は昨夜のメモを読み返してみて、わずかな部分を除いては、中東情勢にちょっと詳しい者ならば、誰でもしゃべれそうなことばかりではないかという気になった。
 穴蔵の舞台装置も、マイヤーの現れ方も、いんちき臭く思えてきた。そして、ホテルまで送って来た与座波が、マイヤーの大物さ加減を吹聴して、さらに五百ドルもの追加謝礼を持ち去ったことが不快でならなかった。
 本村は、ベイルート市内ベンダル区にあるアラブ過激派ゲリラの本部を訪ねてみることにした。それは「黒い九月」とか「被占領地の息子たち」とかいう地下組織ほどではないが、最も過激で戦闘的なグループの中で最も大きいといわれているものだ。
 その本部は意外なほどに簡単に見つかった。しかもそれは市の中心の「大砲広場」から、そう遠くない回教徒居住区の繁華街にある二階建の家屋であった。入口には、中国製のKA47型自動小銃を肩にかけた若者が二人立っていたが、来意を伝えるとあっさりと通してくれた。
「あの時、私たちは不意を突かれたが勇敢に戦いました」
 玄関ホールに残る弾痕を指さして、案内の女性が英語でいった。それは、一九七三年春、イスラエル特務機関の奇襲を受けて、何人かの幹部とそのボデーガードが殺傷された時のものだという。だがそれが不似合な記念品に思えるほど、本部の中は平和な雰囲気が漂っていた。
 本村は二階の事務室に通された。壁には、ハイジャックして砂漠に着陸させたジャンボジェット機や、かつての英雄、ライラ・ハリド、そして軍事教練を受ける少年少女、そんな写真が並んでいたが、いずれも色褪せていた。想像していた�戦うアラブゲリラ�のイメージはどこにもない。
「いつの日か、必ず全パレスチナを解放する。われわれは目標を変えていないし、変えることは決してない」
 応接に出て来た、口髭の立派な壮漢は、なまりの強い英語でそう強調した。
「ハイジャック、誘拐、爆破、その他いかなる手段も、この目的のために必要かつ有効であれば、われわれは行うだろう」
 男の話は、その風貌にふさわしく勇ましいが、内容は全く抽象的だ。
「いつ戦う。近い時期か」
 と、本村は訊ねた。
「アッラーの許し給う時に」
 男は、胸許から目の上まで手をひらひらと上げる、回教徒独特のジェスチャーを見せた。
「日本人の参加者が、最近増加しているというのは本当か」
「われわれは、日本人を含め、正義と平和を愛する全世界の人びとに支援されている」
 男の返答は巧妙だったが、表情には何の変化もなく、とくに隠しだてをしている様子もない。
「ザイジールという指導者について聞きたい」
 男は、黙って首を振っただけだった。
「パレスチナ難民とわれわれの勝利のために……」
 男は、そんなことよりも献金募集の方に熱心だった。
 本村はある種の失望を感じた。そしてマイヤーはいんちきだ、という確信を持った。睡眠不足の身体が重く、丸二日間の時間と千五百ドルもの取材費を失ったことが腹立たしくくやまれた。
 アラブゲリラの本部を出た本村は夕方の街をぶらついた。そこは回教徒街の市場のようなところだった。あまり広くない街道の両側に、果物、野菜、焼菓子、衣類、雑貨などを売る店が続いていた。
 雑踏の中の男たちはほとんどが半袖シャツ姿だが、女性のなかには伝統的なアラブ服も少なくないし、洋服姿でも頭にベールを残している者が多い。流行に敏感なはずの女性の方が、服装に民族的伝統をより多く残しているのは、不思議な世界的現象だ。
 本村は何軒目かの店に立ち停まった。古びた装身具や造りの悪い飾り物をごたごた並べた店だった。買う気もなくそんな品を眺めていた彼は、ふと背後に人の気配を感じた。
「ザイジールの名を口にしないで。さもないと、命が危いわよ」
 女の声が、耳を打った。はっきりした日本語だった。
 本村が振り返るのと、白いベールが去るのとは同時だった。ベールを把えようと手をのばした本村の指先を、十センチほどの差で、それはすり抜けてしまった。
 彼は後を追おうとした。しかし、彼の目の前を、大きな男の背が遮ってしまった。
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