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时间: 2019-03-18    进入日语论坛
核心提示:    3 小宮は、週末から、油減調査の最終作業のために、三、四日大阪へ出張することになっていた。 小宮はその前に�結婚
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 小宮は、週末から、油減調査の最終作業のために、三、四日大阪へ出張することになっていた。
 小宮はその前に�結婚問題�に決着をつけておきたかった。つまり寿佐美に彼の求婚の意志を伝えたかったのだ。
 小宮は金曜日の夜を寿佐美とのデートにあてた。彼はこの日の夕方までに沼川に出張中の事務委任の引き継ぎなどをし、他の役所などから届けられた資料の整理なども終えていた。今日だけは遅刻せずに行きたかったからだ。だが五時前に二週間ぶりに本村英人が現れた。
「ロドリゲス政府からのDD原油の導入、日本はあきらめたって、本当かい」
 本村は、小宮の耳許に顔を寄せて囁いた。
「そんなことないよ。つい二日前にも交渉再開の訓電を発したんだからな」
 小宮は親友のために、とくに訓電のことまでしゃべってやった。
 南米原油の導入については、海底油槽への備蓄が当面不可能なため、黒沢長官や西松石油部長が石油各社を説得して、当初予定の半量三百五十万キロリットルだけは、各石油会社の預かりという形で本年中に受け入れられそうになっているので、現地大使館にその線でロドリゲス政府と交渉するように訓令したのだ。
「おかしいな……」
 本村は小首をかしげ、小宮を疑わしげに見つめた。
「つい二十分ほど前、ロドリゲス政府はヴィッカーサス・グループとDD原油の売買契約をするらしいって、外電が入ったんだよ」
 ヴィッカーサス・グループは、戦後急速にのし上がってきたアメリカの独立石油業者だ。その中心人物、サイモン・ヴィッカーサスは、滅多に人前に姿を現さず「謎の人物」といわれているが、その動きはしばしば全世界を驚かせた。昨年春にも、中東のある土侯国の石油利権を得るため、次男のラムセス・ヴィッカーサスを回教に改宗させ、土侯の娘の一人と結婚させる、という大技をやってのけたほどの、荒っぽい男である。
 その時、長官付き女性秘書がやって来た。
「長官が、お呼びです」
 長官室には、黒沢長官、西松部長、寺木石油第一課長、それに古島資源輸入課長の四人がいた。四人の顔はきびしかった。
〈本村の話は本当らしい〉
 小宮はそう直感した。
 
 須山寿佐美は、帝国ホテルのロビーで、小宮幸治を待っていた。約束の七時はとうに過ぎていた。
 寿佐美は、小宮幸治というエリート官僚と知り合ってから、もう半年近くになるが、会うのは、月に二回程度だった。それにしては、小宮が自分の心に占めるウエートは大き過ぎるように思えた。継母や弟たちが避暑に出かけた時も、彼女は一人東京に留まった。小宮との数少ない逢う瀬を逃したくなかったからだ。
〈あの人また遅刻だわ〉
 寿佐美がそう思ったのは、八時近くなってからだった。
〈私、待たされることに慣れてしまったのだ〉
 と、彼女は考えた。だがそれは、彼女にとっての小宮の重みと、小宮における自分のそれとの比重の差を感じさせた。
 このロビーには、いろんな男女が出入りした。もちろんここを待ち合わせに使う若い男女も多い。だが、その誰もが五分か十分のうちに相手を得ていた。ここで一時間以上も独り坐っているのは寿佐美だけだった。それに気づくと、寿佐美は耐え難い孤独感に襲われた。
 彼女は孤独が怖かった。中学生の時に実母を失った寿佐美は、二十五年余りの過去の半分以上を孤独に過ごしてきた。
 闘争本能ともいえる執念と活力で、事業に挑む父、源右衛門は、寿佐美の事をあまり気にかけてはくれない。源右衛門は、娘の相談に乗ったり、娘心を慰めたりすることが得意ではなかった。そしてそのことを誰よりも源右衛門自身が知っていた。
「お金は飯《めし》みたいなもんや」
 源右衛門はよくそういった。
「そら味噌汁があって漬物が付いて、デザートが出る食事はええ。そやけど、味噌汁や漬物やコーヒだけでは腹がふくれん。飯がなかったら生きていかれへんのや。そこへいくと、飯だけの食事は味気ないとはいうても、とにかく飯さえあったら、生きてはいけるんや」
 源右衛門は、自分が娘に与えられる「飯」の値打ちを誇った。確かに源右衛門は多過ぎるほどの「飯」を寿佐美に与えてくれた。だが寿佐美は「飯」だけの生活にあきあきしていた。皮肉なことに、この多過ぎる「飯」が、寿佐美を一層孤独にさえした。彼女は、常に男の愛情を疑って見ねばならぬ立場に、自分がいることを感じだしていた。やがて自分が相続するであろう百億円以上の資産が、男に偽わりの愛を装わせる危険な力を持っていることを、十分に知っていたからだ。
「お冷やでもお持ちしましょうか」
 ロビー係のウエートレスが横に立っていた。浅黒い顔の見憶えのある娘だった。
「いえ結構です」
 寿佐美は短く答えた。
 ウエートレスが妙な笑いを作ったような気がしたのだ。それがいつも長い間待たされている自分に対するこの娘の冷笑のように思えた。
 もう八時二十分だ。寿佐美は急に立ち上がった。小宮幸治が、いつものように急ぎ足で現れたのは、ちょうどその時だった。
「えらく待たせて、今日は急に……」
 いつもの明るい笑顔だった。だが今夜に限って、その笑顔が、ひどく軽薄で無責任に映った。
「私、今夜は、帰らせてもらいます」
 彼女は出口の方に歩き出した。
「どうしたんだ。急にそんな……」
 小宮はあわてて追った。
「ちょっと待って、大事な話があるんだよ」
 小宮は、今夜寿佐美にプロポーズするつもりだった。
「そのお話は、また機会があったらおうかがいします」
 寿佐美は真直ぐ正面に顔を向けて歩いた。少しでも首を動かすと涙があふれ出そうだった。そんな自分を、先刻のウエートレスが後ろからじっと見つめているような気がした。
 寿佐美の痩身が回転ドアから消えて行くのを、小宮は呆然と見送った。
「日本がどうなるかという時に、たかが女の一人……」
 小宮は、自分にそういい聞かせつつ、寿佐美が出て行った回転ドアを見つめたまま立ち尽していた。
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