耀子と一緒に座敷へ行くと、そこには神家の人々が既に集まっていた。大日女のもとから帰ってきた聖二の姿もあった。
夕飯といっても、一つの食卓を囲むのではなく、それぞれに膳が与えられる宴会のような形式だった。
見ると、上座にあたる席に主のいない膳が二つ並んでいる。それが耀子と日登美の分らしかった。
日登美は、ここでも如実に日女の地位の高さを見せつけられる思いがした。
これがふつうの家ならば、上座の一等席に座るのは、家長である神琢磨のはずだが、実際にその席に当然のような顔で陣取っているのは、次男の聖二であり、それとほぼ同格のような扱いで、耀子と日登美の席が設けられていた。
その座り方を見ただけで、この家の一風変わった序列のようなものが一目|瞭然《りようぜん》に解るというものだった。
みなが膳につくと、聖二があらためて日登美と春菜のことを家族に紹介した。さらに、家族を一人ずつ紹介していく。
長男と四男だけが仕事の都合でまだ帰っていないということだった。
次女にあたる瑞帆《みずほ》という少女を紹介されたとき、日登美はあっと思った。白衣に紫の袴《はかま》姿の、その十二歳ほどの可憐《かれん》な美少女は、あの大日女の住まいで出会った少女にそっくりだったからだ。
年が違うようなので、双子ではあるまいが、まるで双子のようによく似た顔立ちから察するところ、あの真帆という少女とこの瑞帆と言う少女は姉妹であることに間違いない。
ということは、真帆という少女もまた耀子が生んだ子供だったということになる……。
だから、耀子は真帆の話を聞いて、あれほど顔色を変えたのだ。いくら赤ん坊のときに手放したとはいえ、娘であることに変わりはないのだから、もしその娘の身に何か起こったとしたら、母として無関心ではいられなかっただろう。
一応の紹介がすむと、神家の人々は、みな一様に無言で、自分の膳に箸《はし》をつけはじめた。
それにしても……。
日登美はそんな人々をそれとなく見回しながら思った。
よくもこれだけ美男美女があつまったものだ。
鄙《ひな》には稀《まれ》な、という言葉があるが、都会でもそう滅多にお目にかかれないような臈《ろう》たけた美形が、こんな山奥の家にこれだけ一堂に揃《そろ》うと圧巻である。
そこには、何やらおとぎ話めいた異様な雰囲気が漂っていた。
しかも、誰も無駄口ひとつきかない。幼い郁馬や翔太郎でさえ、きちんと正座して黙って食べている。さすがに二歳の末っ子は信江の膝で食べさせてもらっていたが、ふつうの家庭ではちょっと考えられないことだった。
春菜も、この奇妙な雰囲気に呑《の》まれたのか、あるいは、早くも郁馬や翔太郎に感化されたのか、ふだんはもっと日登美に甘えてぐずぐずしているのに、今日ばかりは、ぎこちない手つきながらも黙ってお行儀よく食べている。
とはいうものの、やはり子供は子供で、郁馬は時々物をこぼし、そのたびに、やや脅えたような目付きで、聖二の方に目をやっている。兄の目がよほど気になるらしい。
そんな姿が日登美には痛々しく見えた。