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金子信雄の楽しい夕食6-04

时间: 2019-04-20    进入日语论坛
核心提示:  鱒のイクラ飯 映画、テレビが下火になってからは舞台が多い。うっかりしているうちに三か月を劇場で暮し、春の目覚めを知ら
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  鱒のイクラ飯
 
 映画、テレビが下火になってからは舞台が多い。うっかりしているうちに三か月を劇場で暮し、春の目覚めを知らぬうちに春寒が過ぎ、初夏を迎えた。私はこの間の|殆《ほとん》どを劇場で過したわけだが、舞台の華やかさにくらべると楽屋暮しは独房に近い孤独なものがある。
 まず第一に、楽屋には窓がない。あってもその多くは開かず窓なので、ひとたび劇場に入ると、十二時間は下界ともお別れである。東京ならば、家と劇場との往復に多少の息抜きも出来るが、地方の場合、ホテルと劇場の行き交いだけだから、まさに独房住いに等しい。楽屋から舞台に向かう階段の四天窓からチラリと見る青空は切ないものだ。
 劇場生活がながくなると、もうひとつ情けないものがある。それは食べることだ。楽屋に出前する店は限られているから、一週間もするとテンヤモノ[#「テンヤモノ」に傍点]に飽きてくる。
 名古屋御園座での公演のときには、とうとう悲鳴をあげた。幸い小さな電気コンロの火鉢が備えつけてあったので、名古屋名物“山本屋”の味噌煮込みのお土産一式を求め、金子式味噌煮込みやおじや[#「おじや」に傍点]などを作って、楽屋での食生活をごまかして過した。
 東京に帰って、食生活の欲求不満を解消するべく猛然と台所に入った。はじめに作ったのが、|韮《にら》とレバー、卵の炒めもの。長旅で疲れたためか、妙に食べたかった。
 レバー料理のコツは血抜きを丁寧にして、特有の臭みを抜くことだ。それには、レバーをスライスして、水道の水を落としながら、一時間位漬けておく。レバーカツレツにするときには、よく水を拭き、さらに牛乳に三〇分ほど漬けてから塩、胡椒をするといい。
 韮レバーは水気をきってから、一口大に切り、レバー一〇〇グラムに醤油と酒大さじ二杯ずつを合わせ、にんにくと生姜一かけをすりおろして混ぜ、その汁に三〇分漬けておき、鉄鍋に大さじ二杯半のオイルを熱し、汁ごと強火で手早く炒める。卵は割りほぐし、塩少々を入れ、油大さじ二杯で炒め、つぎに韮を入れ、レバーの炒めたものを合わせて、味を整える。
 
 公演の合い間に鱒釣りをするつもりで、イクラを用意したが、その日が生憎と雨になってしまった。仕方なく、|餌《えさ》のイクラをプチプチ噛みながら、ウイスキーを飲み、雨あしを眺めているうち、ふとイクラ飯[#「イクラ飯」に傍点]を作る気になった。これが、思いのほか上手く出来たので、御披露しよう。
 まず、米三カップをよく洗い、水加減して昆布一枚(切手四枚の大きさ)を入れておく。次に土生姜、梅干し二個分位をスライスして、清水に三〇分ほど浸しアクを抜き、ミジンに刻む。大さじ二杯半ほど出来たら、そのうちの一杯半をほんの少々の塩を入れた米と一緒に炊きこむ。残りの分は、イクラ一〇〇グラムに醤油大さじ一杯、酒二杯をふりかけたものと混ぜておく。御飯がふいたとき、昆布を出し弱火にして炊きあがったら、イクラを入れる。むらしたら、イクラをつぶさぬように混ぜて出来上がり。茶碗に盛ってもみ海苔をかけてやる。
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