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松山着18時15分の死者7-4

时间: 2019-04-27    进入日语论坛
核心提示: 浦上伸介が横浜へ向かったのは、午後六時を過ぎる頃だった。 谷田実憲はそっと記者クラブを抜け出し、淡路警部から入手したデ
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 浦上伸介が横浜へ向かったのは、午後六時を過ぎる頃だった。
 谷田実憲はそっと記者クラブを抜け出し、淡路警部から入手したデータを携えて、やってきた。
 二人が落ち合ったのは、東宝会館裏手の、小さい縄暖簾《なわのれん》だった。構えは小さいが、座敷はそれぞれが衝立障子《ついたてしようじ》で仕切られており、落ち着いた雰囲気の店だった。
 こうした店であるだけに、今夜は日本酒にした。
 秋田産の辛口で乾杯し、
「これが、堀井隆生の、謂《い》うところのアリバイだ」
 谷田は何枚かのコピーを円卓に載せ、その中の一枚を、浦上に示した。
「これらを書き出したのは、宇和島できみを待ち伏せていた、例の部長刑事《でかちよう》さんだ。堀井の発言を元にして正確なダイヤをチェックしたわけだが、初めて時刻表と取っ組んで、それこそ七転八倒したらしい」
「七転八倒しても、堀井の身柄はそのまんまですか」
「いちいちウラが取れていないとあっては、手錠をかけるわけにもいかないさ」
 谷田は猪口《ちよく》を手にしたまま、顔を振った。
 
松山発 九時三十分 L特急�いしづち6号�
(阿波池田まで、製材工場社長の直良が同行)
多度津着 十一時四十六分
多度津発 十一時五十三分 L特急�しまんと3号�
阿波池田着 十二時三十八分
(直良製材工場見学)
(大王製紙社員岩川を紹介される)
阿波池田発 十三時十一分 普通
阿波川口着 十三時二十八分
(岩川下車)
大歩危着 十三時四十八分
(大歩危峡観光)
大歩危発 十五時三十四分 L特急�しまんと6号�
高松着 十七時十分
(ホームのキヨスクで求めた夕刊で、和平興産社長の他界を知る)
(ホームから高松アストリアホテルに電話をかけ、キャンセルを通告)
(ホームから不二通商東京本社へ電話を入れ、今夜のうちに帰京することを伝える)
高松発 十七時二十七分 快速�マリンライナー44号�
岡山着 十八時二十三分
岡山発 十八時四十八分�ひかり162号�
新大阪着 十九時五十八分
(二分停車を利用してホームから不二通商東京本社へ電話をかけ、宿直の若手社員三好に東京駅新幹線ホームまで来るよう言いつける)
新大阪発 二十時 �ひかり162号�
東京着 二十三時四分
(到着ホーム19番線で、三好の出迎えを受ける)
 
 それが、すなわち、堀井隆生の不在証明だった。
「へえ、あの矢島って部長刑事《でかちよう》さん、よくこれだけの数字を書き出したものですね」
 浦上が、本音とも揶揄《やゆ》ともつかずにつぶやくと、
「事件が発生したとき、マジにきみを追っかけたのは、勇み足だったが、あのベテランは行動派だ」
 と、谷田は、すでに矢島部長刑事によって、証人の裏付けが取れていることを言った。
 証人とは、次の五名だ。
 
 松山から阿波池田まで同行した、製材工場を営む直良。
 阿波池田から阿波川口まで同行した、『大王製紙』社員岩川。
 キャンセルの電話を受けた、『高松アストリアホテル』のフロント係。(受信十七時十五分)
 帰京の連絡電話を受けた、『不二通商』東京本社の第三営業課主任。(受信十七時十八分)
 東京駅まで出迎えるよう命令の電話を受けた、宿直社員の三好。(受信十九時五十九分)なお、三好は、指示どおり19番線ホームに出向いている。
 
 捜査陣は、この五人の証言を、いずれも事実と断定した。
 電話を受けた時間が細かく提示されているのは、『高松アストリアホテル』も、『不二通商』も、外線はすべて、簡単な内容と、受信時間をメモするよう義務付けられていたためである。
 通話は、車内電話のように不安定なものではなかった。ホームと覚しき騒音も聞こえていたし、電話は間違いなく車外からかけられたものだった、と、三人は異口同音にこたえたという。
「三本の電話は、堀井の言うとおりの時間にかけられているし、やつが利用した列車の証明にもなっているわけだ」
 と、谷田が説明をつづけると、
「高松駅からの電話はそのとおりに受けとめるとして、ケチをつけるとすれば、新大阪駅か」
 浦上はショルダーバッグから時刻表を取り出して、ページをめくった。
「確かに二分停車ですが、これは何か裏があるんじゃないですかね。こんな慌ただしい停車時間にホームへ降りなくたって、新幹線には電話がついていますよ」
「刑事《でか》さんたちも、その点は確認している。きみのほうが詳しいだろうが、山陽新幹線はトンネルが多いのだろ。トンネルに入ると相互に電話が聞きにくいので、新大阪駅からかけたというんだな」
「だったら、新大阪駅を過ぎてからかければいいでしょう」
 浦上はこだわった。
「新大阪—京都間なら、トンネルはありませんよ」
「堀井の説明によると、新大阪到着時、車内電話は使用中だったとか。それでホームでかけたんだ」
 慌てた理由は、タイムリミットのためだった。
「何ですか、タイムリミットって?」
「不二通商の夜間受付は、午後八時までなんだ。八時を過ぎると、宿直員に対する電話呼び出しがスムーズにいかなくなる場合がある。それで、急いだというわけさ」
「なるほど。新大阪着が十九時五十八分の列車だから、タイムリミットの午後八時ぎりぎりか。でも、何かひっかかりますね」
 浦上は口元をとがらした。
 不審を覚えるのは、取材記者としての本能だった。
 それほど欠かせない用事であったのなら、高松駅か、岡山駅での乗り換え時に、電話をかければよかったではないか。
「いや、宿直は、午後七時に出社してくるんだそうだ。�ひかり162号�の岡山発車は十八時四十八分。すなわち、午後七時前だろ、電話を入れたところで、宿直員はまだ来ていない」
「そりゃ、そのとおりかもしれませんが、こいつは、一皮|剥《む》くと、意外な何かが出てくるのかもしれませんよ」
 浦上はまだ釈然としない。
 犯人は堀井以外にいないのである。岡山発十八時四十八分の列車に、堀井が乗れるわけはないのだ。
 と、すれば、一本の電話にも、細かい計算が成されていなければならない。
「先輩、指紋が一致しているのだから、ともかく堀井を引っ張ってきて締め上げたらいいじゃないですか。あの部長刑事《でかちよう》、ぼくに対しては、やたらしつこかったのに、今度は何ゆえの弱気ですか」
「皮肉なことだが、きみの例もあるしね」
「あれを教訓にしての慎重ですか」
「指紋は目下のところ、唯一の物証だ。最後の切り札にする、と、松山南署の捜査本部では言っているそうだ」
「最後って、ここまで追い詰めた現状が、最後ではないのですか」
「このコピーの主張がそのとおりなら、堀井をレンタカーに乗せることはできない」
「このとおりであるわけがないでしょう」
「しかし、指紋が残っていたのは、被害者《がいしや》専用の自家用車じゃない」
「レンタカーであるから、別のだれかが借り出したときに、堀井が同乗するか、ドアに触れた可能性があるとでもいうのですか。仮に、堀井がそんなことを主張したとしても、ここへきて、そうしたこじつけに耳を貸す刑事《でか》さんたちですか」
「松山には松山の、やり方ってものがあるだろう。ともかくいまは、このコピーの主張を崩すのが先決、としているようだ」
「ところで、新大阪駅の慌ただしい停車時間に、堀井が宿直員を呼び出した大事な用件ってのは何ですか」
「淡路警部も首をひねっていたけど、企業秘密だとよ」
「企業秘密?」
「矢島部長刑事たちは、当夜の宿直だった三好という若い社員に当たった」
 と、谷田は淡路警部経由の情報を言った。夜間受付が閉まる寸前、十九時五十九分に三好が受けた電話には、確かに、駅のホームと思われる騒音が聞こえていたという。
「すまないが、私のロッカーの中にあるアタッシュケースを、東京駅まで届けて欲しい」
 それが、堀井が電話で命令してきた主旨だった。
 列車は東京着二十三時四分の�ひかり162号�であり、自由席の3号車に乗っているので、3号車の前まで持って来てくれというものだった。
「ロッカーのキーは、私の机の、右側の一番下の引き出しに入っている。じゃ、頼んだよ」
 堀井は一方的に用件だけを言って、慌ただしく電話を切った。
 三好は、ロッカーからアタッシュケースを取り出して、指示されたとおりに東京駅19番線ホームに行った。
 二、三分待ったところで、定刻どおりに、�ひかり162号�が入ってきた。
 そして、三好の目の前で、堀井が3号車から降りてきたという。
「宿直の社員に届けさせたアタッシュケースは何ですか」
「それが、企業秘密というんだな。中味とか、届けさせた目的までこたえる必要はないでしょう、と、堀井は口をつぐんでしまったそうだ」
「和平興産社長の他界に、関係があるのでしょうか」
「社長の急死で、予定を切り上げたという説明を鵜呑みにすれば、そういうことになる。だが、どうかね。高松駅のホームで夕刊を見るまでは、年休取って、瀬戸内海を観光する、ということになっていたのだろ」
「不二通商の本社は八重洲だから、歩いて十分も見れば、新幹線ホームまで行けるでしょう。でも、これは、新大阪駅ホームから電話をかけたのにも増して、わざとらしくありませんか」
「宿直の若い社員は、作為的に、�ひかり162号�下車の目撃者に仕立てられた、と、浦上サンは、こうおっしゃりたいのですな」
 谷田は話がそこへいきつくと、同感というように、初めて茶化した言い方をし、笑顔で徳利を差し出してきた。
 いつの間にか、小さい酒場は満席になっている。ほとんどの客が、関内《かんない》周辺に勤める、中年以降のサラリーマンだった。店が込んできても、酔って声を荒立てるような客ではなかった。
 谷田は仲居を呼んで、お銚子を追加し、海草サラダと二人前の焼き魚を頼んだ。
 追加のお燗《かん》が二本、円卓に載ったところで、検討は元へ戻った。
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