あの海水浴場のある町には桃子や葛葉の両親がきていて、骨が折れそうなほど抱きしめられた。
桃子ははじめて、生きて帰ったのだ、と思った。
幸いにも男は死んではいなかったらしい。あとになって知ったのだが、船の事故も男が仕組んだことだったという。エンジンの部分に爆発物が仕掛けられていた、と言うのだ。
男が殺したのは自分の弟だったらしい。弟には多額の保険金がかけられていたという。船が事故にあっても、必ず死ぬとは限らない。だから、弟を殺した後、彼が乗ったと思われる船に爆発物を仕掛けて、事故を装ったというのだ。
しばらく島に潜んで、そのあと、また連絡船が通いはじめた頃を見計らって、逃げ出すつもりだったという。
そんなことを聞いても、桃子たちにはどこか遠い場所の話としか思えなかった。
あそこにあった痛みは、もうふたりの胸の中にしかない。