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私の西域紀行04

时间: 2019-05-23    进入日语论坛
核心提示:四 イリ河 八月十九日、午前中は休養。午後三時に招待所を出て、伊寧紡績工場を参観する。この工場の労務者の三六パーセントが
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 四 イリ河
 
 八月十九日、午前中は休養。午後三時に招待所を出て、伊寧紡績工場を参観する。この工場の労務者の三六パーセントが少数民族、工場の主任が詳しく説明してくれるが、漢訳の通訳を挟んで、その上で日本語に移されるので、三倍の時間がかかる。
 紡績工場を出て、郊外にイリ河を見に行く。天山山脈から流れ出し、イリ(伊犁)盆地を西に向って流れ、国境を越えて、ソ連領のバルハシ湖に入る川である。伊寧(イーニン)が歴史の街であるように、イリ河もまた歴史の川である。時代の民族興亡の歴史の中を流れている。トルキスタンの川では、カラクム沙漠を流れて、アラル海に入るアム・ダリヤ、キジルクム沙漠を流れ、同じようにアラル海に入るシル・ダリヤ、それからイシク・クル湖畔を源にし、チュー渓谷を流れて、沙漠の中に消えるチュー河、──この三本の歴史の川と竝んで、イリ河もまた東西交渉の歴史の中に登場して来る。
 くるまをイリ大橋の袂《たもと》で棄てて、橋の上からイリ河の流れを眺める。橋は非常に長く、橋を渡り切ったところに検問所があり、通行の許可証がないと、対岸地区に入ることはできない。この辺はソ連との境界地帯に入っているので、すべてがやかましくなっている。
 橋上から眺めると、イリ河は川幅の広い大きい川であるが、川筋の半分は砂洲に、半分は流れになっている。流れは小波《さざなみ》一つ立てず、静かに置かれてあって、どちらが上流か、下流か判らない。橋をまん中にして、上流も、下流も、共に大きな砂洲を抱えて、川幅は拡がっており、しかも折れ曲っているので、遠くまで眺め渡すことはできない。しかし、川の水は澄んでいる。上流右手の河畔に集落があるが、いかにも河畔の集落といったたたずまいで、美しい。
 イリ河を対岸に渡って、パンジン人民公社に向う。この集落は人口一万六〇〇〇、八少数民族でできている。静かな農村で、ウイグル族の一軒の家に入ると、陽気なウイグル娘たちが、葡萄棚の下で歓待してくれる。踊ったり、歌ったりする。見ていると、実に楽しそうだ。歌は歌うもの、踊りは踊るもの、そういう考え方に徹している感じで、はにかみというものは、いささかも持ち合せていない。
 何軒かの農家の庭先きを覗かせて貰う。どこにも葡萄棚ができており、その下に椅子、卓が配されてあったり、絨毯が敷かれてあったりする。
 パンジン人民公社を辞して、町中に入り、古いイスラム寺院を訪ねる。これは私の希望によって、スケジュウルに組み込まれたものである。寺院へ入ってゆく路地にも、表通りにも、たいへんな人が群がっている。みな外国人である私たちを見物に来ている人たちで、老人も居れば、娘も居り、よちよち歩きの子供までいる。
 表通りから楼門までは人で埋まり、右手に一間ほどの小川が流れているが、その小川にまで人が入っている。これほど物見高い人たちはないだろうと思う。
 山門楼をくぐると、広場があり、その向うに本堂と覚しき大きな建物が建っている。そこが礼拝堂で、その中に入れて貰う。内部は何百人でも坐れそうな広さである。住職が出て来る。馬文炳という回族の人。小柄で、信心深そうな五十歳ぐらいの人物である。体格は貧弱で、絶えず笑顔を見せ、突然の珍客の来訪に対して、どうしていいか判らぬといった面持ちである。回教の洗礼名(?)を訊くと、モハメド・フルサインというと答える。そのうちに少し慣れたのか、いろいろ説明してくれる。
 この建物は伊寧では一番古く、清の乾隆《けんりゆう》時代のもの、もとはひどく荒れていたが、一九五八年に国の費用で修復している。現在のけばけばしい塗装はその折のものである。外観は仏教寺院に似ているが、初めからモスクとして建てられたもので、内部は完全にモスクの体裁を調えている。ただイランやトルコのモスクと異るところは内部装飾が全くなく、一枚のタイルも使われていないことである。がらんとした大広間で、柱だけが赤く塗られている。
 この教会は現在生きて活動しており、毎日五回、決まった時刻に礼拝が行われている。礼拝時刻が来ると、山門楼の三階に人が登り、そこからアラブの言葉で、“礼拝の時刻が来た、礼拝の時刻が来た”と、大声で呼ばわる。
 この地方には、このほかにも幾つかの回教寺院があるが、その大部分がこの寺院と同じように、外観は仏教寺院、内部はモスクといった体裁の建物である。アラブ式のモスクもないわけではないが、アラブ式のものはみな小さい構えであるという。
 回教寺院を引き揚げると、次は国境に非常に近いところにある金泉人民公社を訪ねる。シボ族、カザフ、ウイグル、漢族、モンゴルの五つの少数民族九〇〇〇の人たちで構成されている公社である。この村の人たちは生産の任務と国境守備の任務を持っている。従って公社の人たちは仕事のほかに歩哨に立ったり、巡邏《じゆんら》活動に服したりしなければならない。
 しかし、公社の招待所で話している限りに於ては、他の公社と少しも変りはない。明るく、のびやかで、労武結合が、いかに特務に対して効力があるかといった例を、世間話でもするような調子で、口々に話してくれる。正規軍と民兵と農民の協力、そんな言葉も度々飛び出す。
 
 八月二十日、招待所を十時に出発する。今日はウルムチ(烏魯木斉)に帰る日である。空港に向う途中、公園に立ち寄る。町中の公園ではあるが、樹木がたくさんあって、陽の光が樹間からこぼれていて美しい。
 空港への道は、どこまでも真直ぐに走っているポプラの竝木道である。ポプラはウルムチのポプラと同種類であるが、天に向っての伸び方は、どうもこちらの方が一層輪をかけているような気がする。そのことを同行の土地の人に話すと、紙片に“穿天楊”と書いてくれる。名前であるか、形容であるかちょっと見当がつかないが、天をうがつ楊とは適確な言い方だと思う。
 空港へ行くと、草地の中に一本滑走路が走っている。滑走路以外は一望の草の原である。機はここに来る時と同じアントノフ24、四六人乗りである。この機種は翼が高いのでどの席の窓からも下を見ることができるので、有難い。
 十一時四十分離陸、すぐみごとな大耕地の上に出る。きのう見たイリ河の流れが見えている。褐色、黄、緑、茶、色とりどりの短冊が竝んでいる。やがて耕地地帯を離れて、一木一草ない丘陵地帯の上に飛び出す。無数の黄褐色の粘土の固まりを、そこに置いたようである。ところどころに草付きの薄緑の斜面があり、谷間《たにあい》の川は白い糸屑のように見えている。
 やがて山塊は大きくなり、谷は深くなる。どの谷間にも糸屑の川がある。山塊の斜面を例の雲杉らしいものが埋め出す。この方は濃い緑である。セリム湖行きの時は、こうした谷間の一つを登って行ったのであろうと思う。
 この黄褐色の山岳地帯の最も高いところを越す。右手に大山脈が見えてくる。この大山脈のつらなりは、どこまでも続いている。やがて真下に山塊現れ、機はそれを越えてゆく。こんどの山塊は大きい。樹木というものは殆どなく、無数の稜角を持っている。前方を見ると、こうした山脈が幾つも重なっており、その果てに大山脈が置かれている。先刻の大山脈の続きであろうか。
 機はやがて沙漠地帯に出る。右手は丘陵地帯の向うに大きい山脈の連なり、雪が見えてくる。天山である。
 離陸してから三十分、全く地殻の模型を見ているようである。機は次から次に現れてくる天山の支脈というか、前山というか、そうしたものを越えている。やがて天山はその姿をむき出しにしてくる。すべての稜角が真白になり、それに陽が当っている。山肌は黒褐色。まさに大天山である。その雪の大天山はどこまでも際限なく続いている。幾つもの支脈によって隔てられてはいるが、機と天山は近くなり、指呼のうちにある感じである。が、やがて天山山脈は遠くなってゆく。そして十二時二十分、大沙漠の向うに天山が置かれてある景観に変る。
 天山北路の空の旅である。機は大平原の上に出ている。雪の大天山は依然として右手に見えている。全くの屏風《びようぶ》である。その屏風の向うに、タクラマカン沙漠が拡がっているのである。
 十二時四十分、無数の短冊の大耕地の上に出る。天山は依然として、雪を頂いた姿で続いている。大河が見えてくる。いかにも天山から流れ出して、まっすぐに北を目指している川の感じである。砂洲もある。ゆったりと身をくねらせている川であるが、あるいは乾河道であるかも知れない。長い橋がかかっているが、川筋もまた漠地の様相を呈している。依然として大耕地は続いている。天山の前山が雪をかぶって現れ出す。すると、もうこれで自分の役目は終ったとでもいった風に、次第に天山は遠くなってゆく。
 やがて機は、ウルムチ空港に降りるために高度を下げ始める。雪の前山も次第に遠くなってゆく。十二時五十五分、沙漠の中のオアシス、その中のウルムチ空港に着陸する。
 四日目のウルムチである。陽光は烈しく、三十五度。空港よりの道は、さすがに伊寧より立派であるが、街路樹のポプラは、伊寧の方がひと廻り立派である。水が多いためであろうか。
 新市街に入る。街から天山の前山の雪が見える。くるまはそれに向って走ってゆく。やがて旧市内。沙漠の欠片の丘、瓜を食べている男たち、葉の茂りの美しいベラの竝木、馬に乗っている男、驢馬の荷車、──この地区の雑然さはたまらなくいい。四日目のウルムチは、私の眼には、前より落着いた街に見えている。
 
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