雪の降りしきっている夕暮れだった。銭塘(せんとう)の杜(と)という男が舟を漕いで行くと、岸に、白衣を着た一人の若い女の姿が見えたので、
「雪が降るのにお困りでしょう。どこへ行くのですか。この舟で送ってあげましょう」
と声をかけると、女は、
「ついそこまでなのですけど、乗せていただけますか」
という。杜は舟を岸につけて女を乗せてやった。まぢかで見ると、この世の者とは思われないほどの美女である。杜が身ぶるいをしながら、思わず、
「お綺麗(きれい)ですねえ」
というと、女は、
「ご冗談を……」
といったが、しばらくすると、突然、一羽の白鷺になって雪の中を飛び去って行った。杜はそのとき、全身の血の抜けていくような思いをした。
家へ帰った杜はそのまま寝つき、二、三日で死んでしまった。
六朝『捜神後記』