臨川(りんせん)郡の山々には、刀労鬼というものが出没する。あらわれるのは必ず風雨の激しいときで、うなり声のような音をたてて人間に何かを吹きかける。それがあたると間もなく皮膚が腫れあがり、ひどい痛みに襲われる。
刀労鬼には雄(おす)と雌(めす)がいて、毒のまわりは雄の方が速い。雄に襲われたときは半日、雌に襲われたときは一晩で全身に毒がまわってしまう。だから、この地方の山にはいる人は、いつでもすぐ手当てができるように用意していなければならない。手当てが少しでも遅れると、襲われた人は死んでしまうのである。
六朝『捜神記』