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中国怪奇物語108

时间: 2019-05-28    进入日语论坛
核心提示:  茶店の娘 栄華をほこる洛陽の都の片隅に、粗末な卓と長椅子を置いただけの、ささやかな茶店があった。柱はかたむき、壁はと
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   茶店の娘
 
 
 
 
 栄華をほこる洛陽の都の片隅に、粗末な卓と長椅子を置いただけの、ささやかな茶店があった。柱はかたむき、壁はところどころくずれ落ちていて、めったに客もなかった。
 主人の石(せき)夫婦は、長いあいだの貧苦に疲れはてたようで、もう商売にはげむ気もおこらないといったような風体で、終日ぼんやりと坐っていた。
 夫婦のあいだには独り子の娘がいた。まだ十二、三歳だったが、なかなかの美人で、それに性格が明るく、ときどき店に出ては巧(たく)まざる愛(あい)嬌(きよう)をふりまいていた。
 ある日、一人の乞(こ)食(じき)が杖にすがって店へはいってきて、いった。
「おお、可愛い娘さんだ。お茶を一杯くれんかな」
 長椅子に腰をおろすと、乞食は苦しそうに肩で息をした。顔は垢(あか)にまみれ、着物はぼろぼろである。
 娘は茶をいれて乞食に渡しながら、
「おじさん、身体(からだ)の具合がわるいの?」
 ときいた。
「いやなに、疲れているだけだ」
 と乞食はいい、うまそうに、ゆっくりとお茶を飲んで、
「ありがとう、娘さん。これで、だいぶん元気が出てきたよ」
「もう一杯あげましょうか」
「いや、娘さん。飲みたいのはやまやまだが、わたしには一杯がせいぜいなのだ。なにしろ、もらいがすくないのでなあ」
「あら、そんなつもりでいったのじゃないわ。お金はいらないわ。貧乏なのはお互いさまですもの」
 乞食の眼がキラリと光った。
「わしをきたないとは思わんのかね」
「きたないとは思うけれど、貧乏なのだから仕方がないわ。うちもこんなに、きたないもの」
 乞食は笑いながら、
「そうだな、それは、きたないよりは、きれいな方がよいな。わしもそう思うよ。それではお言葉にあまえて、もう一杯もらおうか」
 といった。娘はこころよく、もう一杯いれてやった。
 その日から、乞食は毎日、娘が店に出ているときを見はからってやってきた。娘はいつもやさしく迎えて、上等のお茶を飲ませてやった。
 そんなことが一ヵ月あまりもつづいたある日、父親が店に出てきて、乞食が金をはらわずに帰っていくのを見つけてしまった。
「あの乞食は、ときどきくるのかね」
「ええ、毎日くるわ」
「お前はいつもただで飲ませてやっているのか」
「もらいが多かった日は、お金を置いていくこともあるわ」
「置いていくこともある? このごろは上等のお茶が減っているのに売り上げがふえていないので、どうしたんだろうと思っていたんだが、そのせいだったんだな。ばかな! うちは人にめぐんでやるような身分じゃないんだぞ。それに、あんなきたない乞食に出入りされては、ただでさえ客のすくない店に、誰もこなくなってしまうじゃないか。こんどきたら追っぱらってしまえ!」
 しかし、その後も乞食に対する娘の態度は、すこしもかわらなかった。また父親が見つけて怒ると、娘は、
「だって、可哀そうなんだもの」
 といった。何度目かには父親は娘を殴(なぐ)った。しかし、乞食に対する娘の態度は、すこしもかわらなかった。
 ある日、乞食は娘にいった。
「きのうは、わしが帰ってから、お父さんに殴られて泣いていたな。なぜ泣いたんだね。殴られてかなしかったから? 痛かったから?」
 娘は首を横にふった。
「わしを可哀そうに思ってかね」
 娘がうなずくと、乞食は、
「そうか。このきたない乞食を毎日いたわってくれてありがとう。娘さん、お前さんはほんとうに心のやさしい人だ。……ところで、お前さんは、このわしの飲みかけのお茶を飲みほすことができるかね?」
 といいながら、手にした茶碗を差し出した。娘はその茶碗を受け取ると、ちょっとためらい、乞食が口をつけていたところからすこしお茶をこぼした。すると、そのこぼれたお茶から何ともいえない芳香が店いっぱいにたちこめた。娘は不思議に思い、知らぬうちに残りのお茶を全部飲んでいた。乞食はそれを見ると、これまでのよぼよぼとした姿勢をシャンと正していった。
「これ、娘さん、わしはただの人間ではない。呂(りよ)翁(おう)という仙人なのだ。お前さんには仙人になれる資質があると見て、乞食の姿をしてお前さんに近づいてみたのだが、やはりわしの見込みちがいだった。わしの飲みかけのお茶を全部飲まなかったのが、そのしるしだ。だが、半分は飲んだ。それだけでお前さんには福がある。望むところをいってみるがよい。かならずかなえてやろう。お前さんは富貴を望むか、それとも長寿を望むか?」
 娘は貧しい茶店の子で、富貴というものがどういうものかわからなかった。そこで、
「長寿を望みます」
 といった。
「うん、それがよかろう」
 乞食は大きくうなずいて、店を出て行った。娘の両親が芳香に気づいて店に出てきたときには、もう乞食の姿はなかった。
 乞食はそれきり姿を見せなかったが、芳香はいつまでも残り、噂がひろまって店は急に繁昌しだした。
 その後、娘は成人し、その美貌とやさしい心を見込まれて、さる大官の家に嫁ぎ、幸福な日々をおくったが、夫の死後、呉の燕王の孫娘の乳母になり、百二十歳の長寿をたもったということである。
宋『夷堅志』
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