笑林広記
田舎の親戚で酒を造ったときいて、町の者がその家へ訪ねて行ったところ、あいにく主人は留守。しかしその女房が息子にいいつけてもてなさせ、その夜は泊めてくれた。
男は酒にありつけなかったので、むしゃくしゃしてなかなか寝つけない。その部屋は女房の寝室の壁隣りだった。女房は夜中に便器にまたがって小便をしだしたが、あまり品(ひん)のわるい音をさせてはまずいと思い、つとめて股を締めつけるようにして、少しずつぽたぽたと垂らしつづけた。男はその音をきいて、ひそかによろこび、
「ほほう、今頃になって隣りの部屋で酒をこしているようだ。しめた、明日の朝は一杯飲めるぞ」
とつぶやいた。女房はそれをきいて、思わず頬をゆるめたが、そのとたんに下の方もゆるんで、小便がどっと出だした。男はその音をきくと手を打ってくやしがり、
「やれやれ、ついていないな。惜しいことに酒をこす搾(しぼ)り袋が破れてしまったらしい」