艾子雑説
艾子(がいし)は酒好きで、酔っていない時はほとんどなかった。そこで弟子たちが、先生に酒をひかえさせようと思って相談した。
「酒が体にどんなに毒かという証拠を見せて、先生をこわがらせることにしよう。そうすれば先生も少しは慎(つつし)んでくださるだろう」
ある日、艾子はしたたかに飲んで、へどを吐いた。弟子たちは艾子に気づかれないようにしてそのへどの中へ豚のはらわたを入れ、それを艾子に見せていった。
「人間は五臓があるから生きておられるのです。先生は度をすごして酒をお飲みになったため、とうとう五臓のうちの一つを吐き出してしまわれました。あと先生には四臓しかありません。これからはよほど気をおつけにならないと生きてはおられません」
艾子は自分が吐き出したという一臓をつくづく眺め、そして笑っていった。
「かまわん。三蔵法師でさえ生きていたんだ。おれにはまだ四つもあるじゃないか」