笑府
ある士人、海の物を食べたいと思ったが、金を出してまで買う気にはならない。貝売りがきたのをさいわい、買うふりをして呼びとめ、あれこれ手に取ってみて、長くのばした爪の裏へ貝の汁をためこんだ。
そして食事のたびに、爪の裏の汁を少しずつ嘗(な)めては、おかずの代りにしていた。夜は指を蒲団の外へ出して寝て大事にしていたが、四、五日たつとせっかくの爪の裏が臭くなってきたので、口惜しくてならず、
「ええいっ、惜しいことをした。こうなるのだったら、けちけちせずに、もっと贅沢に嘗めたらよかった!」