笑府
冥土に住んでいた男が、また人間世界へ生れかわることになった。そのとき閻魔大王が、
「そなたを金持に生れかわらせる」
というと、その男は、
「お言葉を返すようで失礼ではございますが、わたくしは富貴を望みません。ただ、一生衣食に事欠くことなく、平々凡々に、香(こう)を焚き茶を飲んで日をすごすことができますならば、それで満足でございます」
すると大王が、
「いや、それはならぬ」
といった。
「金が望みなら何万でもさずけてやるが、そのような清福をさずけるわけにはいかぬ。もし人間世界にそのような清福があるならば、このわしがつれて行ってもらいたいわ」