笑府
ある男、銀子(ぎんす)五両を四分の利息で借り、十ヵ月たったら七両返済するという取りきめをした。
十ヵ月たって返済する段になると、
「いまのところ都合がつかないので、もう三両足してもらって、十両の証文に書きかえてもらいたい」
という。貸主はそのとおりにして、三両渡した。四分の利息で十ヵ月たったら十四両返済するというとりきめである。
十ヵ月たつと男はまたいった。
「今年も都合がつかないので、もう一両足してもらって、十五両の証文に書きかえてもらいたい」
貸主は一両ぐらいのことならと思い、しぶしぶそのとおりにして、一両渡した。四分の利息で、十ヵ月たったら二十一両返済するというとりきめである。
十ヵ月たって貸主が催促に行くと、男は、
「やっぱり都合がつかないので、もう四両足してもらって、二十五両の証文に書きかえてもらいたい」
という。また四両せしめようというのか、と貸主は癪にさわってならず、
「もうその手には乗らん」
というと、男は怒っていった。
「わたしが、いつ元利をごまかした? いつも元利をはっきりさせているではないか。こんどは二十五両借りて、四分の利息で、十ヵ月たったら三十五両返済しようというのに、なんでもうその手には乗らんなどといいなさる? 道理のわからん人だ!」