笑府
ある男、借金取りにせめたてられて逃げだし、涸井戸(かれいど)の中へ飛び込んだ。借金取りがあわてて、
「おい、出てきてくれ」
というと、男は、
「いやだ。出て行ってもあんたに返す金はないんだ」
「困ったな。それじゃ、出てきたら証文を焼いてやるから、出てくれ」
「それはありがたい。しかし、おれは出ないよ。出て行っても貧乏で、どうせ暮していけやしないんだから」
「出てきてくれたら、多少の金や米は用立てるよ」
「それはありがたい。しかし、やっぱりおれは出ないよ。おれには仲のよい友達がいるんだが、そいつはおれよりももっと貧乏なんだ。そいつに十両ほど貸してやってくれるなら出て行ってもいいよ」
「あんたに用立ててやるうえに、その友達にまでというわけにはいかないよ」
「まあ、そういわずに、貸してやってくれ。おれが保証人になるから大丈夫だよ」